謎の男

4/10
前へ
/333ページ
次へ
 遠慮がなくなってきた指の動きに、思考は溶けていく。縦横無尽に駆け巡る指に、もう何も考えられなくなる。息遣いと共に溢れる艶っぽい喘ぎ。  破廉恥な声が浴室の外に漏れないよう、歯を食いしばって必死に抑える。  毎日毎日粘膜を擦られるうちに、私の体は変になってしまった。心は嫌だと叫んでいるのに、体は日に日に順応してきて、私はこの屈辱的な行為に快感を見出すまでになっていた。  その証拠に、中からはドロリとした液体がたくさん出てくる。  これが愛液だと教えてくれたのは、男だった。この行為が始まって最初の頃、催眠術にかけるかのように、繰り返し繰り返し言い聞かされた。  あいつは体液を掻き出すように指を動かす。  この動作にも濡れてきてしまう私は、きっとあばずれなんだろう。風呂場に反響する水音と喘ぎ混じりの吐息が、そのことを示唆していた。  自分がどんな顔をしているのか知りたくもない。私はいつも目を固く瞑って、正面に備え付けられた鏡を絶対に見ないようにしていた。男の方でも、私が目を閉じていることがわかっているようで、  ——見ないのか?  なんて、揶揄うような口振りで言ってきた。それを聞いて、なおさら瞼に力を入れるようになった。
/333ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加