謎の男

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 それに、私の場合は普通の患者よりも、もっと治療が難しいかもしれない。  解離性同一性障害について色々調べてみた結果、私のもう一つの人格であるこの男は——あるいは私自身は相当に稀な存在だと判明した。  一般的に解離性同一性障害というのは、一方の人格が現れている時、もう一方の人格には意識がない。そのせいで記憶に抜けがあったり、知らないうちに怪我ができていたり——などといった問題が発生するのだ。  また、非憑依型というパターンもあって、これは自我が体から離れていき、まるで映画を見ているように、どこか遠いところから自分を見ている——という感覚なのだが、いずれにせよ私には当てはまらない。  男が現れる時、私の意識はハッキリとしていて、感覚だって通常と変わらずリアルに感じられる。現実味がなくなることなんてない。  私の自我は、解離性同一性障害に罹っている人からすれば、驚くほど正常に働いているのだった。  だから余計に辛いのだ。こいつに体を好き勝手されている時だって、私の感覚、意識、感情は明瞭そのもので、決して鈍くなってはくれない。
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