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「え、お父さんがお母さんの両親に挨拶って、いわゆる『お付き合いさせてもらってます』ってやつだよな? 俺そんなだった? ぜんっぜん覚えてねんだけど、緊張してて」  お昼に入ったカレー屋さんの2人掛けのテーブルは、トレイが2つギリギリ置けるサイズで、だからむしろ近寄って話しやすい。 「えっと…。りっくん格好よかった…」  ってことしか僕も覚えてない。 「あ…うん。ありがとう。つか、てことは空のお母さんは最初っから、あれ?って思ってたってこと…だよな?」 「…うん。そういうこと、だよね」  今思えば、母の発言や行動は、気付いてたんだろうなっていうのがいっぱいあった。  テーブルにのってる2つのトレイ。りっくんの大盛りカツカレーと、僕の普通のカレー。僕のにはりっくんがくれたカツが一切れのってる。そのお皿の中身の減り具合は、だいたい同じくらい。  ほんとはりっくんは、大食いで早食いなんだって 「いつかさ、ちゃんと言える日が来たらいいなって思ってたけど、まさかこんな早いとはな。びっくりした、マジで」  グラスに手を伸ばしながら、片眉を歪めてりっくんが笑った。 「お母さんね、小学校の頃の話してた。旅行の時。…だから、その積み重ねがあるから…かも」 「あー…、そう、なのか? つか小学校の時なんて別に俺、たいしたことしてねーだろ。むしろ転ばせてケガさせてっし」  僕が一口食べると、りっくんも食べる。ていうペースでゆっくりとカレーが減っていく。 「うん、そうなんだけど…。僕が楽しそうだったって、お母さん言ってた。りっくんが卒業しちゃうまで。…だから…かな?」 「ふーん?」  喋りながら食べても置いていかれないから、安心していられる。 「あ」  椅子の背もたれとの間に置いてあるトートバッグの中で、スマホが震えた気がした。 「スマホ見てもいい?」 「ん? いいよ? なんで?」  不思議そうな表情も格好いい。 「ご飯中に見たら怒られない?」 「あー…。聞いてない、つかあんま親と同じ時間になんないから。冷蔵庫に入ってるからあっためてね、みたいな。だから空ん家でみんなで食事すんの新鮮なんだよね」  少し目を伏せて話すりっくんの口元が、ほんの少し淋しそうに笑ったように見えた。  おうちがお店やってるって大変なんだ。考えたことなかった。  ごそごそとトートバッグの中からスマホを出して見てみたら、母からのメッセージが入っていた。  なんだろ。  りっくんにポップアップに本文が出ない設定を教えてもらったから、アプリを開く。 ーー空、お母さんたちも映画に来たんだけど、満席だったから次の回にするから帰り遅くなります。鍵持ってなかったら、私たちが帰るまで律くんに付き合ってもらって。18時半過ぎには帰れると思いまーす。 「なんだった?」 「お母さんたち、遅くなるから鍵持ってなかったらりっくんといてって。まあ鍵は持ってるんだけど。18時半過ぎそうって」 「…へー…」  アプリを閉じて、何気なくりっくんを見た。  わ…っ  なんだろう すごい…  視線が熱い 「空は、この後どっか行きたい所、ある?」  テーブルの下で、とん、と膝を当てられた。 「あ…」  その振動が波紋のように身体全体に伝わっていく。  どくん、と心臓が脈打った。 「…俺は空ん家に行きたい」  もう一回、りっくんの長い脚が僕の脚に当たる。 「嫌…?」  ううん、って首を横に振った。りっくんの脚が触れている所から体温が移ってくる。  この体温をもっと感じたい 「じゃあ、今回も食べたら帰ろっか」  僕はうん、て頷いた。  この前は、参考書を買って、ランチの後りっくん家に行ってキスした。    今日は、うちで…
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