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 登下校の途中、駅付近で時々りっくんを見かけた。  たいてい1人、たまに男友達と歩いてた。最近は女の子とは歩いていない。…まあ、すぐ次のカノジョができるんだろうけど。  僕は前みたいにりっくんを見れなくなって、でも見たい気持ちは前より強くなってる。  近付きたい。顔が見たい。話がしたい。  でも怖い。  今、りっくんに近寄って避けられたら、以前より大きなショックを受ける気がする。  そんなことになったら立ち直れなくなる。  だからやっぱり、りっくん家のコンビニには入れない。  学校の行き帰りとかに中を覗いて、それだけ。  りっくんは、いたりいなかったりで、うっかり目が合ったりしたら僕はまた慌てて逃げ出した。  何がしたいんだろう、僕は。自分の気持ちなのにさっぱり分からない。分からないまま、身体が動くまま、りっくんを見に行って、りっくんから逃げてる。  神谷は体験入部に行って、里田さんとは駅で別れて、僕は1人でいつものようにりっくん家のコンビニの前に差しかかった。  今日はりっくんいるかな?  お店の角の辺りから、こそっと中を覗いた。 「お前、いつんなったらうち入んの?」 「!」  背後からの声に息が止まって、身体がびくりと跳ねた。  恐る恐る振り返る。 「…り…っ」  りっくん…っ 「はは、目ぇまん丸だ。変わんねーなぁ、空」  わらった…  りっくんの笑顔、いつぶりだろう。 「高校入学おめでとう、空」  僕を見下ろすりっくんが、大きな手で僕の頭を撫でてくれる。 「あ…、え…っと、ありがとう…。あ、あの、りっくんも、大学入学おめでとう…っ」  おめでとうって言いたかった。  話しかけてほしかった。  小学生の時みたいに、りっくんのそばに行きたかった。  うれしい   りっくんの声 りっくんの笑顔  うれしい うれしい  でもなんで、今まで僕を避けてたの?  一気に色んなモノが頭の中をぐるぐる巡った。 「わ、わ、わ、待て待て。どした? 泣くな、泣かないでくれよ空」  りっくんの慌ててる声がする。でも視界は水浸しで表情はよく分からない。  りっくんがパーカーの袖口で僕の目元を拭いてくれてる。 「ほらほら、ちょっとこっち来い」  りっくんが僕の手を引いて、建物の陰に連れて行こうとする。  手、繋いだの、すごい久しぶりだ  僕はりっくんの大きな手をぎゅっと握り返した。  りっくんは手をびくりと震わせて、そして足を止めた。 「…空、お前この後なんか予定ある?」 「…え…?」 「すぐ帰んないといけない、とかあるの?」  握った手をぐいっと引かれて、りっくんを見上げた。  くっきりした二重の強い目が僕を見下ろす。明るい茶色に染めた長めの前髪が、サラリと風になびいた。 「…な…い…けど…」  どきん、と胸が鳴った。じわじわと体温が上がってくる。  りっくんと繋いでる手が汗ばんできてる。 「じゃ、ちょっと寄ってって。話がある」  はなし…?  りっくんは僕の手を握ったまま、階段を昇り始めた。この前りっくんが声をかけてくれた階段。店の横にある、りっくん家に続くこの階段を昇るのは初めてだ。  2階にある玄関の鍵を開けて、「入って」とりっくんが言った。おずおずと中に入って靴を脱ぐと「こっち」とまた手を引かれて廊下を歩いた。  展開が早くて頭が追い付いてない。心臓はドキドキうるさく鳴っていて、顔が熱くて涙が滲み続けていた。鼻をずずっと啜って唇を噛む。 「ちょっとここで待ってて、な?」  また僕の目元を拭ってくれて、りっくんはドアを開けて部屋に入った。  手を離されて急に心細くなった。  さっきまでりっくんと繋いでいた手を、反対の手で包むように握った。  
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