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 レストランフロアを回って、洋食屋さんに入った。りっくんはカルボナーラを頼んでて、僕は鮭ときのこのクリームパスタにした。 「空、この後どうする? もうちょっとウロウロしてく?」  りっくんがパスタをくるくるとキレイに巻きながら僕に訊いた。  熱い視線がスッと流れてきて、僕は容易(たやす)くそれに絡め取られてしまう。 「それとも…、うち、来る?」  カチャッとフォークがお皿に当たった。唇を噛んでりっくんを見返す。  とくん、とくんと心臓が鳴り始めた。 「…っくん家、行く…」  ドキドキして、声が上手く出ない。じっと見つめ合ってるうちに、どんどん体温が上がっていってる。りっくんの綺麗な二重の目が柔らかく微笑んだ。 「…うん。じゃあ、食べたらうち…な?」  優しくて甘い、低い声に、うんと頷いて応えた。 「さっきの涙目の理由も、話してもらえる?」  それにも、うんて頷いた。りっくんが、くすって笑った。 「喋れなくなっちゃうの、かわいーよね、空」  そう言ってりっくんは巻いたパスタを口に運んだ。  僕はパスタが上手く巻けなくて、モタモタしながら食べてた。途中でちらっとりっくんを見ると、「ん?」って感じで僕を見て、そしてにこっと笑う。  大きな手がゆっくりとグラスを持ち上げた。  こうやって一緒に出かけて、ご飯食べたりするの、すごく楽しい。  でも…  りっくんと2人っきりで話がしたい。  誰の目も気にしないで、ぎゅっとくっついて過ごしたい。  どんどん欲張りになって、どんどん歯止めが効かなくなっていってる。    みんなこうなのかな  僕が欲深かすぎるのかな  帰りの電車は空いてたから2人で並んで座れた。一人分ずつ座席のクッションがなだらかな凹凸になっていて、これがなかったらもっとぴったりくっつけるのにって思った。  あ  一高の最寄駅で、スピードを緩めていく車内からホームを見ていたら、数人の一高のジャージのグループがいた。その中に…。  神谷、だ。  目が合った、気がする。でも一瞬だったし、気のせいかも。 「どした? 空」  咄嗟に顔を伏せた僕を、りっくんが軽く覗き込んだ。  ううん、て首を振って顔を上げた時、視界の端にこの車両を追って走っているようなジャージ姿の人物が映った。  …神谷?  まさか、ね。  走ってくる必要なんかないし、それに今日、用があるとは伝えてある。何の用かは訊かれなかったから言ってないけど。だからと言って追いかけてくる意味が分からない。  ただ、神谷はりっくんの事になるとなぜか不機嫌になる。それが面倒くさいから言わなかったのもある。  りっくんがドアの方に視線を移した。プシュッという音と共に開いたドアから人が降りて、そして乗ってくる。僕も恐る恐る目を向けた。  やっぱり神谷だ。  肩で息をしながら睨むようにこっちを見ている。 「…神谷くん、目付き鋭いなあ」  そう言ったりっくんは冷たく微笑んでいて、すごく格好よくて同時に少し怖かった。  隣の車両との間の貫通扉が開いて、ジャージ姿の数人がわらわらと入ってきた。 「なんだよー、神谷ー。いきなり走んなよ、お前はえーし」 「あー、(わり)い。ちょっと気になって…」  僕の方を一瞬見た神谷は、すぐ視線を逸らして部活の仲間の方を向いた。 「でももういいから。隣のが空いてっから隣行こうぜ。ごめんなー」  そう言って神谷は貫通扉を開けて隣の車両に移って行った。 「空、神谷くんて何部?」  りっくんが僕に顔を寄せてこそっと訊いてくる。 「陸上部。今日は午前練だって言ってた。あ、そうだ、だからね、この前神谷と廊下歩いてたら佐藤先輩に「2人って友達なの?」って言われたよ」  電車内は声を潜めて喋るから、至近距離で僕の話を聞いてるりっくんにドキドキする。 「そっかそっか。まだ部活ジャージができてねーんだな。にしてもこの前佐藤に会っててよかった…」 「え?」  なんで?って思いながらりっくんを見たら「なんでもないよ」って顔をしてた。  貫通扉のガラス越しに、隣の車両の神谷たちが見えた。何人かは座れたみたいで、でも神谷は立っていた。
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