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 車窓の景色が家の最寄駅への接近を報せていて、アナウンスも間もなくの到着を告げた。周りの数人が座席から立ち上がってドアに向かった。  僕もりっくんに続いて立ち上がる。まだ電車は動いてるから少しふらついてしまって、りっくんが僕を支えてくれた。  大きな手にしっかりと肩を抱かれて電車を降りた。  神谷が隣の車両から見てるかもしれない。  神谷の家の最寄りは隣の駅だからまだ降りないだろうし。  月曜に学校で何か言われるのかな。 「空?」  名前を呼ばれてハッとしてりっくんを見上げた。 「…神谷くんのこと、気になる?」 「っていうか…。神谷、りっくんが絡むと機嫌悪くて、なんでかなぁって」  僕がそう言ったら、最初思案気だったりっくんがくすっと笑った。 「それは…、そのうちわかるかもしれないし、神谷くんが教えてくれるかもしれないし、分かんねえまんまかもしれないし、だな」 「りっくんは分かるの?」  なんで? 神谷と話したこともないのに。 「まあ、なんとなく…。つか上目遣いめっちゃ可愛いね、空」  りっくんが僕を引き寄せながら耳元で囁いた。りっくんの声の響きと吐息が耳から身体の中に入ってくる。 「もう神谷くんのことは置いといて、俺のこと考えてくんない?」 「……っ」  息が止まるほど心臓がぎゅんってなって、こめかみがドクドクいい始める。 「空、改札だよ? カード出して?」 「…あ、えっと…」  どこ入れたっけ、パスケース。全然アタマ働かない。  人の流れから少し外れた所に誘導されて立ち止まった。 「カードはバッグのここ、な?」  肩にかけたトートバッグの内側を指差して、りっくんが微笑んだ。  そうだった。バッグの取っ手にリールを付けて、内ポケットに入れたんだった。  そんなことも分かんなくなってる。  ゴソゴソとパスケースを出すと、りっくんが「行こうか」って僕を促して改札に向かった。  なんで改札って1人ずつしか通れないんだろう、なんて当たり前のことに腹を立てながら通り抜けて、僕を振り返ったりっくんの元に駆け寄った。 「ははっ、かーわい」  破顔したりっくんが僕の肩をぎゅっと抱く。僕はりっくんの背中に手を回して、シャツをぎゅっと掴んだ。  だいすき  りっくん家までは歩いて5分。5分したら、2人っきり。  たった5分の道のりが長くて勝手に足が速く進む。りっくんはくすくす笑いながら、僕の歩くスピードに合わせてくれてる。  ドキドキする。  ドキドキ ドキドキ ドキドキ  りっくん家のコンビニが見えてきて、りっくんが少し僕を引き寄せた。 「うちの階段狭くてごめんな?」  肩を組んだままじゃ昇れないから、りっくんが僕から腕を解いて、でも僕はりっくんのシャツを掴んだまま階段を昇った。りっくんは昇りながら「うわー」って言ってポケットから鍵を出すと、急いた様子でドアを開けた。そして僕を抱えるように中に入って、バタンとドアを閉めた。  片腕で僕を抱きしめたりっくんが、後ろ手に鍵をかける。 「…あのな、空。お前可愛すぎだから」  ぎゅううっと苦しいほどに抱きしめられて、頭にちゅってキスをされた。 「来て」  少し掠れた声と、僕の手を取ったりっくんの大きな手の熱さ。  心臓が何倍にも膨れ上がったみたいにバクバクしてて、靴も上手く脱げない。モタモタしてたら、りっくんがスッと屈んだ。 「俺の肩に掴まって、空」  うん、て頷いて肩に手をかける。 「初めて会った時みたいだな。空を転ばせちゃった時」  あの時みたいに、りっくんが優しく靴を脱がしてくれた。 「…あの時ね、痛かったけど、痛くなかったんだ…」 「ん?」  立ち上がったりっくんが、不思議そうな顔をする。  その腕に腕を絡めて抱きしめた。 「りっくんがすごく優しかったから、痛かったけど痛くなかった」 「そっか…」  ふふって笑ったりっくんが、ゆっくり歩き始めた。 「なんか…、そういう話とかも色々聞きたい。空のこと。会ってなかった間のこととかも知りたい」  りっくんの大きな手が僕の頭を撫でる。それが心地よくて、僕は抱きしめたりっくんの腕に頬を擦り寄せた。 「…僕も…りっくんのこと、もっと知りたい…」 「…かーわいいなぁ、もう…。どーすんの、そんな可愛くて…」  やばいだろ、って呟いたりっくんが僕を部屋に引き込んで扉を閉めた。  
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