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「高山、土曜の用事って三島先輩と出かけることだったのか?」  月曜日の朝、教室で里田さんと喋ってたら、不機嫌全開の顔をした神谷が朝練を終えて入ってきた。カバンを持ったまま、まっすぐ僕たちの方に来る。 「え、あ…、うん。参考書買いに…」 「えっ、三島先輩一緒に選んでくれたの? いいなー、高山くん」 「うん。一揃い、アドバイスしてもらいながら買ってきた」 「嘘だろそんなん。高山、あの時そんな荷物持ってなかったじゃん」  じろりと見下ろされてビクッとした。 「え…っと、あの…持って、くれたから…」 「わっ、三島先輩やさしー」  里田さんがびっくりしたように呟いて、神谷はますます眉間に皺を寄せた。  やっぱ言っとこう、りっくんのこと。 「あのね、りっくん、僕の家庭教師してくれることになって…。それで参考書一緒に買いに行ってくれたんだ」  大丈夫。嘘じゃない。 「えー。三島先輩が家庭教師? ドキドキして勉強にならなそう」  里田さん、正解。  神谷が何か言おうと口を開きかけたところで予鈴が鳴った。神谷は舌打ちして踵を返して、里田さんは「またね」って言って教室を出て行った。  昼休みは神谷が学食に行ったから里田さんと平和に過ごした。 「高山くんは部活どうすることにしたの?」 「んー。部活は入んないかも。特別やりたいことないし」  今、活動日に水曜が入ってなくても今後もずっとそうとは限らないし。  それに、この前みたいに突発的にりっくんに会えるってなった時に、みすみすそのチャンスを逃したくない。 「うんうん、そっかー。あたしはどうしよっかなー。やっぱ園芸部入ろっかな」  今日は無糖の紅茶を飲みながら里田さんが言った。「ちょっと太ったの」って言ってたけど、全然そんな風には見えないのに。 「それにしてもさ、最近神谷くん機嫌悪いよね。なんかいっつもイライラしてるし。…あれさ、原因は三島先輩だよね」 「え…」  ドキッとして里田さんを見た。 「よく思い返してみたら、神谷くんの眉間に皺が寄りっぱなしになったのって、高山くんと三島先輩がお友達復活してからなのよね」  里田さんが意味ありげな視線を僕に向ける。 「う…ん。そうだね。早く機嫌直してくれるといいんだけど…」 「…それは無理かなー…」  里田さんの掠れた呟き。 「え?」  さっき里田さん何て言った? 声小さくて聞こえなかった。 「可愛いのも罪よね、高山くん」 「え?」  分かんないよ、里田さん。  神谷が教室に戻ってきたのは、昼休み終了の予鈴が鳴った後だった。怖い顔して話しかけられてもやだけど、これはこれで何か避けられてるみたいな気持ちになった。  放課後になって、神谷はさっさと教室を出て行ってしまって、里田さんも「ちょっと園芸部見に行くー」って言うから1人で帰ることにした。  5月に入って、放課後でもまだまだ気温も太陽の位置も高くて、シャツにベストでちょうどいい感じ。眩しいなぁって思いながら俯いて歩く。 「あー、高山くんじゃん。今日は1人?」  この声は、えっと…。  顔を上げたら、前から佐藤先輩が歩いてきてた。それと…。 「おお、久しぶりー、空。おっきくなったなぁ」 「あ、えっと…、直樹くん…?」  りっくんの友達。小学校からの。 「そうそう。覚えてた? おれもここの卒業生なんだー。で、陸上部の元部長」  直樹くんはそう言って、えっへん、って感じで胸を張った。
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