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「あれ? お母さん寝ちゃったのか」 「あ、うん。今…」  お風呂から出てきた父が、よいしょと座った。 「まあ空は風呂に入ってきなさい。いいぞ、露天風呂は」 「はーい」  お風呂のあるテラスに出て、とりあえずスマホをチェックした。 ーー海鮮丼うまそー。  りっくんだ。返事くれてる。  へへって思いながら、また写真を送った。…母が撮った僕の写真以外を。  自分の写ってるのを送るのはなんか恥ずかしい。    あんまり遅いのも怪しいかもって思ってさっさとお風呂に入って、部屋に入る前にまたスマホを見た。 ーー楽しそうだなー。空の写真はないの? 自撮りとかしない?  僕の写真…は、ある、けど…。  これは…、送った方がいい、んだよね?  中からお父さんとお母さんの話し声が聞こえてきた。  お母さん起きたんだ。ならこの後お風呂に入る。  早くしなきゃ…っ  母が撮ってくれた写真は3枚。その中の一枚を「えいっ」って送った。  だ、大丈夫かな。温泉まんじゅう食べてる写真で。  浴衣にはポケットがないから、スマホを脱いだ服とかの上にのせて部屋に戻った。  伏せてあるスマホがブルッと震えた。 「あー、空。浴衣かわいー。それも写真撮ろっか」  母がにこにこしながら近付いてくる。母の目が僕のスマホに留まった。  やばいっっ 「あ、うん、ちょっと待って。荷物とか置くしっ」  ぱたぱたと母の隣をすり抜けて、自分のバッグとかを置いてある所に向かった。そして母たちに背を向けてスマホをチェックする。  わっ ーーかわいいかわいい! めっちゃかわいい! 温泉まんじゅううまそう!!  よ、良かった。りっくん喜んでくれてる。でもこれ見られたらごまかし効かない。  またカメラを起動してから母の元に戻った。    ポップアップにメッセージの内容が出ないようにする設定の仕方、りっくんに訊こう。  でも、内容は出てなくても、りっくんから何件もメッセージきてるの見られたら十分怪しまれる気がしなくもないけど。 「男子もねー、浴衣かわいいのよね。まあ自分の子は何着てたって可愛いんだけど」  母は上機嫌で僕の写真を撮って、「あれ?」って言った。 「空、お風呂から上がってすぐよりも、今の方がほっぺ赤くない?」 「え?!そ、そう? なんでだろっ、気のせいじゃないっ?」  首からぶわっと熱が上がってきてる。 「温泉はあったかさが続くからなぁ。お父さんもまだホカホカだぞー?」  お父さんナイス! 「そっかぁ。温泉効果ね。お母さん空にステキなメールでも届いたのかしらって思っちゃった」 「…っっ!」 「あら空、目ぇまん丸ー。さ、お母さんもお風呂入ってこよーっと」  そう言って母は軽い足取りで露天風呂に向かった。  …こ…わ…っ  お母さんこわいよっ  僕が母の後ろ姿を見送っている間に、父は布団に横になり寝息を立て始めていた。 「お父さん、布団かけないと風邪ひくよ」  父の足の下になってる掛け布団を引っ張って、肩までしっかり被せた。
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