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翌日は朝から美術館や文化財の洋館とかを観に行った。
合間合間で隙を見て、りっくんに写真やメッセージを送る。今日はりっくんは家のコンビニだから返信が早い。
お昼ご飯は鉄板焼き。父が写真を共有できるようにしてくれて、母にスマホを渡さなくてもよくなってホッとした。
「その2枚目の、あーんってしてる写真が可愛いでしょ?」
って母が言うから、それをりっくんに送った。
ーー可愛くて美味そうで最強!
りっくんが毎回嬉しそうに返事をくれるから、段々自分の写真を送ることに抵抗がなくなってきてる。
お土産も色々買って、夕方に海を見に行った。
「すごい、夕焼けキレイねー」
群青から薄いブルー、そしてオレンジ色へと移るグラデーション。ピンク色に染まった雲がたなびいて、海もキラキラと桃色に光っていてすごく綺麗だ。
ザザザ…っていう波の音と、ぬるくて独特の匂いのする海風。地球の丸さが分かる水平線に、船のシルエットが見えた。
周りの人たちがやってるのをマネして自撮りをしてみた。逆光で顔は暗くなっちゃったけど、夕焼け空はいい感じに撮れたと思う。
ふと見渡すと、少し離れた所で父と母は夕日を見ながら仲良さそうに喋っていた。
2人の世界だ。
ちょっと…だいぶ羨ましい…。
まあいいや。今のうちにりっくんにメッセージ送っちゃお。
ーーー初自撮り!
っていうメッセージと一緒に、さっき撮った写真を送った。
スマホを手に持ったまま、じんわりと移ろう夕焼けを見ている。陽がだいぶ沈んで、青の割合が高くなって、空が夜になっていく様が美しい。
手の中のスマホが震えた。母たちがまだ2人で楽しそうにしているのを確認して、スマホをチェックした。
りっくんだ。
ーー空が綺麗だね。
もう一回母たちの方をチラッと見て返信する。
ーーーでしょ? 夕焼けすごい綺麗だよ。
ーーあ、じゃなくてさ。
え?
ーーお前が、綺麗だなって。
「……っ!」
内側から何か熱い塊がどくどくと湧き上がってきて身体が破裂しそうだ。
どうしよ…。顔、すっごい熱い…っ。
冷やしたいけど手も熱い。扇ぐのは余計目立つ気がする。
「空ー、そろそろ晩ご飯行こっかー」
「あ…っ、は、はーい」
振り返って見た父と母の顔が、夕日を受けて赤くなっててホッとした。
薄暗くなってきた砂浜を少し歩いて、父の行きたがっていたお寿司屋さんに向かった。涼しい風が吹いてきて、頬の熱が少し引いてくる。ちょっと暗めの照明のお店で、またホッとした。
でも、まだドキドキしてる。
りっくんと付き合い始めてから、僕の心臓はオーバーワーク気味だ。
高校受験前の、ずっと緊張してた時みたいに鼓動が跳ね続けている。
…ドキドキの種類は、全然違うけど。
「わー、すごい美味しそうに撮れた。見て見て」
母が父にスマホを見せてはしゃいでいる。
「これ、グループのに送っちゃおー」
梅酒で少し頬を染めた母は、ママ友仲間に写真を送ったらしい。母のスマホもしょっちゅう鳴ってる。
「便利よねー。昔はこんなことできなかったもん」
「携帯電話が普及してから劇的に変わったもんなあ、社会が」
携帯電話のない時代、っていうのが僕にはピンとこない。
「電話っていえば家電でね。誰が出るか分かんなくて怖かったー」
「そうだよ。お義父さん怖かったし」
『おとうさん』、は『お義父さん』でおじいちゃんのこと、だよね?
「それっていつの話?」
「お母さんたちが高校生ぐらいの時の話」
茶碗蒸しをちゅるんと吸い込んで母が言った。
「あの頃は、携帯電話はあったにはあったけど、まだ高校生が持つ物じゃなかったからなぁ」
父が、うんうんて頷きながらしみじみって感じで言う。
「…お父さんとお母さんていつ出会ったの?」
そういえば聞いたことない。
「私が高1、お父さんが高3。美術部でね、お父さん部長だったのよ」
「へー…」
考えたことなかった。当たり前のことなのに。
お父さんとお母さんも、恋人同士だったんだ…。
「え、じゃあ、それからずっと…?」
「そう。まあ色々ありつつ、ね。空もこういう話に興味持つ年になったのねぇ」
母がくすっと笑う。
「え、あ、いや…」
墓穴…っ
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