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ーー声も聞きたいし顔も見たい。
どくんっ、とまた大きく心臓が跳ねた。
お父さん、もう出かけたかな。
洗面所のドアをそぉっと開けて部屋を見渡した。
いない。
ーーー今、ちょっとなら。どうやるの?
ーー応答のアイコン押せばいいだけだよ
ってメッセージがきてソッコーで着信が鳴った。
応答を、押す…っ
わっ りっくんっっ
『空…』
小さな画面の中のりっくんは、額縁に納まってる絵画みたいだ。
何日振りだっけ? りっくんの顔見たの…。
やっぱり格好いい…っっ
「あ、あの、今お父さんコンビニ行ってて、お母さんお風呂だから…っ」
『そっか。いいタイミングだったんだな』
りっくん、まだお店の制服だ。
「うん」
スマホの画面の中から、りっくんが僕をじっと見てる。
『…空、あれ、あの浴衣の写真。…あれは反則だぞ?』
「…え…?」
反則…って…?
胸がきゅうってなって息が止まった。視線を動かすこともできなくて、りっくんを凝視している。じわじわと視界が潤んできていた。
『…あんなん見せられたらさ…、無理だよ。絶対言わねえって決めてたのにさ』
ぼやけてきてるけど、なんかりっくんの目元が…赤い…?
「…りっくん…?」
『空、早く帰って来いよ。2泊3日なんて長すぎるよ。なんだよあの可愛い写真。めちゃくちゃ可愛いじゃん、浴衣。もう致死量だよ。俺死にそーだぞ? マジで』
え…?
『こんなこと、絶対言わないつもりだった。格好悪いし、家族旅行に水差すようなこと。でも』
りっくんが下を向いて大きくため息をついた。そして唇を噛んで、また僕を真っ直ぐ見る。
『ごめんな、空。も、無理。限界。言うだけ、だから言わして? …早く会いたい。早く帰って来いよ。早く俺んとこ帰って来て、な?』
「…っくん…っ」
『明日、待ってるから。お土産楽しみにしてるぞ?』
ほんのりと頬を赤く染めて、バツの悪そうな顔でりっくんが言う。
『つか手ぶらでいいから、早く空に会いたい』
そんな真っ直ぐな目で見られたら息もできない。
『ごめん。後ちょっと仕事あるからこれで。格好悪くてごめんな?』
「ううんっっ」
力いっぱい頭を横に振ってしまったからクラリとした。
言いたいことはいっぱいあるけど、胸が詰まって言葉が出てこない。
『じゃあ明日、な? 空』
「うん…っ」
プツッと通話が切れたスマホを、しばらくそのまま見つめていた。
手の中のスマホに広告メールが届いて、ブルっと震えてハッとした。
いつまでも洗面所にいたら変だ。
慌てて、でも慌てて見えないように洗面所から出て、荷物の整理をし始めたところに、父が帰ってきた。
あぶない あぶない
「おかえり、お父さん。お母さんまだだよ」
「やっぱり?」
お父さんはくすっと笑って、僕にお菓子を渡してくれて、それから冷蔵庫にビールを入れた。
露天風呂のあるテラスへの戸がカラリと開いて、母が部屋に入ってくる。
「あー、いいお湯だった。お父さん次どうぞ」
ホカホカの母がにこにこしながら父に言う。
「はいはい」
父がよいしょと立ち上がって、母がよいしょと座った。そして母はふぅっとため息をついた。
「2泊3日なんてあっという間よねー。もう1泊くらいしたい気持ちだわ」
鏡を覗きながらぼやく母の横顔を見た。
『2泊3日なんて長すぎるよ』
さっきの切羽詰まったみたいなりっくんの声と表情を思い出した。
『俺死にそーだぞ? マジで』
あんな風に言ってくれるなんて思ってなかった。
『早く会いたい。早く帰って来いよ』
僕も早くりっくんに会いたい。
荷物の整理をしながら、つい顔がにやにや笑う。
『早く俺んとこ帰って来て』
うん、りっくん。待ってて。
明日の夕方には僕、りっくんのとこに帰るよ
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