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「思ったより早く混んできたわね」
「そうだなぁ。まあ明日も休みだから多少遅くなっても…」
よくない! 全然よくないよ、お父さん!!
ーー高速混んできただろ。渋滞情報、混雑のオレンジになってる。
ーーーうん。進まない〜。
もっと早く出発してれば、とか、あの時ソフトクリーム食べてなかったら、とか、そんなことを考えてモヤモヤする。
ーーー早く帰りたいのに。
りっくんに会いたいのに。待っててくれてるのに。
ーー空、俺はこの後用事もないし、待つって言っても家にいるだけだから。遅くなるとか気にしなくていいから。もちろん早く会いたいけど。
唇を噛んでりっくんのメッセージを読んだ。
ーーーうん。りっくん。
ふぅ、とため息をついて外を見て、車の多さにまたため息をついた。
「疲れたか? 空。休みたい?」
父がバックミラー越しに僕を見た。
「ううん、大丈夫。乗ってるだけだし」
お父さんさえよければ、このままノンストップで帰ってほしい。
1分でも1秒でも早く帰りたい。
ようやく家の最寄りの料金所を出て、よく見慣れた街並みの辺りまで戻ってきた。
ああ、やっと、あとちょっと…
「ところで今日の晩飯どうしようか。どこか寄ってくか?」
えっ、お父さんやめてっ
「そうよねぇ。どうしようかしら。ちょっと疲れちゃったのよねぇ。空は何が食べたい?」
「あ…、えっと…」
助手席からくるりと振り返った母が「あ」って言うような顔をした。
「…そういえば空、律くんのお土産にプリン買ったってことは、すぐに持って行くのよね?」
母は身体をぐにっと捻った姿勢で後部座席の僕をじっと見る。
「え、あ…うん」
「じゃあ律くんに今から行ってもいいか訊いてみて」
「え?」
思わず母の顔を見返した。
「いいって言ったら律くん家の前で下ろしてあげるから、お土産渡して帰りに律くん家のコンビニでお弁当でも買ってきて。ね?」
いいでしょ? って母が父に訊いて、父はいいよって答えた。
「ほら空、早く律くんに訊いて。あと2、30分で着くわよ」
「あ…は、はい」
僕は慌ててスマホを出してメッセージアプリを開いた。
ーーーりっくん、あと2、30分で行っていい?
慌ててるから説明不足のメッセージになってるって、送ってしまってから気付いた。でも。
ーーいいよ。
「あっ、りっくんいいって…っ」
「ほんと? じゃあ空、荷物の中から律くんのお土産まとめてね」
そう言われて、あたふたとお土産を探って適当な紙袋にまとめた頃、りっくん家のコンビニが見えてきた。
ーーーりっくんもう着く
「はい、空。これでお弁当買ってきて」
前方から母が5千円札をにゅっと差し出して、僕はそれを受け取ってポケットに入れた。
車のスピードが緩やかに落ちていく。
あ!
コンビニの2階のりっくん家のドアが開いて、りっくんが出て来たのが見えた。
りっくん! りっくん!
車が路肩に停まると同時に僕はドアを開けた。スマホとお土産を掴んで外に出る。
階段を降りてきたりっくんが車の方に頭を下げた。父はうんうんって感じで頷いて、母は嬉しそうに手を振ってた。
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