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 コンコンコンとノックされて「お茶持ってきたわよ」って母の声がした。 「あ、うん。お母さんありがとうっっ」  顔っ、顔大丈夫かなっっ?! 赤い?!  あ、でも、廊下薄暗いし、逆光になるし平気かな?!  さっきまでとは違う意味でドキドキしながらドアを開けて、ペットボトルとグラスとクッキーののったトレイを受け取った。 「晩ご飯、7時でいい?」 「うん。いい、よね?」  ちらりとりっくんを見たら、りっくんが「はい」って母に応えて、僕の手からトレイを取った。 「じゃ、頑張って」  母が妙ににこにこしながらドアを閉めた。 「りっくんが来ると、お母さんすごい嬉しそうなんだよね」 「嫌われてなくてマジでありがたい、俺は」 「りっくんを嫌う女の人なんかいないよ?」  帰りに見た光景が頭に浮かんだ。  頬を染めた、たくさんの女の子たち…。 「それは言い過ぎ」  くすっと笑ったりっくんが、再び僕を抱きしめた。トレイはいつの間にか机の上に置かれてる。 「…空、キスだけ、いい…?」  顎に指をかけられて、上を向かされた。  頷く代わりに目を閉じた。  閉じた瞼に影が落ちるのを感じる。  キスする時、唇を開くって、もう知ってる。  優しく、あやすように口付けて、りっくんが唇を離した。 「勉強しよっか。中間終わったら映画行けるように」 「…うん…」  タクシーの中で手を繋いでからずっと、身体の中で熱が燻ってる。 「ごめんな、空。さすがにこれ以上のことは今できねぇから…」  …バレてるしっ  恥ずかしくて、りっくんの胸に顔を埋めた。  あ  りっくんもすごいドキドキしてる… 「俺もね、正直キツい。でも、な。2人で頑張ろ、空」 「…うん」  机に並んで座って、教科書を開いた。  りっくんは自分ではそんなに得意そうに言ってなかったけど、教えるのが結構上手だった。授業でちょっと引っかかってた問題も、りっくんに説明してもらったらよく解った。  …りっくんの声が心地よくて真剣に聞いてるからかもしれないけど。  低く響くりっくんの声、大好き  予定通り母が19時少し前に「ご飯よ」って言いに来て、3人で晩ご飯を食べた。 「お客様用のお茶碗小さかったから、律くん用の買ってきちゃった」  母がえへへって笑いながら言って、りっくんは「ありがとうございます」って頭を下げてた。  ご飯の後も真面目に勉強をして、21時前におしまいにした。  次は土曜日。  帰る前にりっくんは僕をもう一度ぎゅうっと抱きしめて、軽くキスをした。 「収まんなくなったらやばいから、な」  片眉を歪めて笑うりっくんがめちゃくちゃ格好いい。  帰らないで、っていうわがままをどうにか飲み込んで、広い背中を見送った。 「どう? 勉強、進んだ?」  後ろから母に声をかけられてビクッとした。 「う、うん。りっくん教えるの上手だった」 「そう。良かったわね。中間テストいい点取れそう?」 「取る、つもり」  で、りっくんと映画に行く。  頑張ったご褒美に、っていう名目にする予定だから良い成績を取らなくちゃ。 「そういえば空、制服のまんまね」 「あ、うん。なんとなく」  りっくんが着せてくれた制服。 「ネクタイ、いつもとなんか違わない?」 「え、そ、そうかな」 「なんか、いつもよりこなれた感じがする…、気がする」  僕をじっと見た母が、まいっか、と背を向けた。  ネクタイほどくの、もったいないな。  今日は結んだまま緩めて外そう。  そうすれば、明日もりっくんと一緒にいる気持ちになれそうだから。
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