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 昨日、そんなことがあったんだよってりっくんに言ったら、「そっかぁ…」ってため息をついてた。  土曜日の僕の部屋。りっくんの長い腕に包まれて、まずは話を聞いてもらった。 「顔の印象とおんなじくらいキリッとした性格してんな、神谷くん」 「うん…。でもびっくりした。まさか神谷が…って」  りっくんにぎゅうっと抱きつくと、りっくんも僕を抱きしめ返してくれる。 「空は可愛いからなー。好きになっちゃうよなー」  片腕で僕を抱きしめているりっくんが、大きな手で頭を撫でてくれた。 「正直すげぇ心配してたけど、その感じなら大丈夫かな」 「心配…?」  見上げたら、りっくんがくすって笑った。 「そりゃ心配するだろ。あんな明らかに空のこと好きなやつが近くにいたら」 『三島先輩にはとっくにバレてんの分かってたし』    いつから気付いてたんだろう、りっくん。 「じゃ、一安心したところで勉強しよっか。…キスしてから」  そう言って顎をすくわれた。  土曜日だから、うちは両親とも家にいる。部屋に鍵もかからないし、キス以上のことはできない。  もどかしい  舌が溶け合いそうなほど口付けて、切なく疼く身体を離した。 「…何からやろっか」 「…数学…」 「OK」  教科書を開いて、練習問題を解いていく。間違ったり引っかかったりすると、りっくんが優しく教えてくれた。    お昼は母にチャーハンを作ってもらった。りっくんが「空の好きなもの」って言ったから、土曜のお昼の定番のチャーハンにした。 「すごい。全然量が違う」  僕のと、りっくんの。 「律くんのお母さんにね、どれぐらい食べるか訊いたの。コンビニに寄った時に」 「うわ、すいません、そんな…」  りっくんが母に頭を下げたら「いいのいいの」って母が笑った。 「だって体格が全然違うから分かんなくて。この前の晩ご飯、足りなかったんじゃない?」  りっくんは母の問いかけに首を横に振りながら「全然そんな」って応えてた。  お父さんも来て、4人でご飯を食べたのがなんか変な感じだった。  一緒にご飯を食べ終わって、また勉強して、合間に今度見に行く映画を決めた。 「空はどの辺の席がいい? 第3希望ぐらいまで言っといて。チケット買っとくから」 「え、でも…」 「カッコつけさせて、な?」  反論しようとした僕の唇を、りっくんが人差し指でツンとつついた。 「…うん…」 「かっわいー上目遣い。な、空。どのへんの席?」  僕の頭を撫でながら微笑んで覗き込んでくるりっくんが格好よくて、何を訊かれてるか分からなくなってくる。  そう、映画、の席… 「後ろ…の方で、端っこの席、か、前に通路のある席の端、かなあ?」 「端っこは隣の席がない所ってことでOK? …隣に変な人が座ったこととかあんの?」 「…うん。隣、知らない人が座るの、やだ」  暗闇の中で脚を撫でられたことがある。思い出してぞっとした。 「そっかそっか、分かった。端っこの席な」  うん、て頷いて手を伸ばしたら、抱きしめてくれた。 「…思い出しちゃった? 嫌なこと」 「…うん…」 「ごめんな」  ううんって首を振って、りっくんの肩に顔を擦り寄せた。  勉強してたって、りっくんといる時間はあっという間に過ぎていく。 「次の水曜、どうする? 一斉下校だから学校まで迎えに行ったら目立ちすぎるか?」 「…かも…」  今日はおしまいってことで、帰り支度をしているりっくんを見てる。 「じゃ、駅のホームにする? あんま変わんねーかな?」 「…駅にする。急いで帰るから、待ってて?」  ちょっとでも長く会いたい。  今だってほんとは、帰ってほしくない。  りっくんの腕を取って、ぎゅっと抱きしめた。 「待ってるよ。だから転ばない程度に急いで、な?」 「うん。…あのね、りっくん」  今度会ったら絶対言うって決めてた言葉がある。 「ん?」  タイミングが分かんなくて帰りになっちゃったけど…。 「…だいすき…」 「…うわっ、やばい、致死量喰らった。幸せ過ぎて俺死ぬ…」  大袈裟なくらい喜んでくれて嬉しくて、りっくんの腕をぎゅうぎゅう抱きしめた。  りっくんは反対の手で僕の頭を撫でてくれる。 「ほんと可愛い。毎回帰る時がマジでキツいんだよなぁ。空、ポケットサイズくらいにちっさくなってくんね? 連れて帰るから」 「ずぅっとりっくんのポケットに入ってられたら、いいね」  くすくす笑いながら、そんなバカな話をしてる。  すっごい幸せ  …でも  ねぇりっくん  僕の大好きの裏側を見ても、おんなじように言ってくれる…?
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