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「空?」  呼びかけられて上目にりっくんを見つめた。二重のりっくんの目が見開かれて、それから眩しそうに細められた。  りっくんがより僕の方に顔を寄せて声を潜める。 「そんな色っぽい目で見られたら、ここで押し倒しそうなんだけど」 「!」  カチャンとスプーンがお皿に当たった。 「驚いてんのもめちゃくちゃ可愛い。空、自分が可愛いの、もちょっと解った方がいいよ?」  くすくす笑いながら、りっくんがカレーを一掬(ひとすく)い口に入れた。僕は何も応えられずに、4分の1程になったカレーを掬った。    心臓と、りっくんの脚の当たってる所がドキドキしてる。ドキドキしながら僕は頑張ってカレーを食べた。  胸いっぱいだけど、りっくんとご飯を食べるのは好き。  僕よりも少しだけ早くりっくんが食べ終えた。僕はこのあと一口が食べられない。 「りっくん、お腹いっぱい?」 「ん? どした? 空」  あ、あのお姉さんりっくんを見てる。 「もう一口、食べらんない、から…」  スッとスプーンを上げてりっくんの方に向けると、ふっと笑ったりっくんが口を開けた。  その口に、ゆっくりとスプーンを差し入れた。  …この唇と、このあとキスする  視界の端で、さっきのお姉さんが口元に手をやったのが見えた。  いいでしょ、僕の彼氏…って、思ってしまった。    スプーンを抜き取って、じっとりっくんと見つめ合う。りっくんの舌が唇をぺろりと舐めた。 「最後の一口が1番美味かった」 「…うそ…」  ちらっと見上げたら、りっくんは可笑しそうに目を細めた。 「ほんと。空、出られる? もちょっと休む?」 「だいじょぶ」 「じゃ、行こっか。電車空いてるといいな」  脚がフッと離れて心細くなる。 「…混んでてもいい」  そしたら… 「くっついてられるから?」  耳元でりっくんが低い声で囁いた。甘い響きが脳に染み込む。  僕はぎこちなく頷いた。 「空はほんとに可愛いな」  伝票を取ってレジに向かうりっくんを追いかけた。こんな時は歩くのが速い。僕の分のお金を差し出したら、500円玉1枚だけを取った。 「…いいの?」 「いいのいいの。さ、行くぞ」  りっくんはおサイフにお金を戻している僕の肩を抱いて、僕がサイフをバッグに入れたと同時に歩き始めた。 「ごめんな? ちょっと気が急いてる」  いつもよりも少し、歩調が速い。  なんかあの時みたい。小学生の、忘れ物した朝。  りっくんに手を引かれて一生懸命歩いた。不安な気持ちはりっくんの『大丈夫』で消えた。  モールから出たら初夏の日差しが眩しかった。今がたぶん1日で1番暑い時間。  でも、りっくんとべったりくっついていたい。  僕はりっくんの背中に腕を回して、緑色のシャツを握りしめた。  駅も電車も朝より空いていた。今回は座席に凹凸のないタイプの車両だったから、ぴったりと腕をくっつけて座った。  ほんとは手も繋ぎたい。    りっくんに触れたい 触れたい 触れられたい  さっきまでりっくんの腕がのっていて、汗ばんだ肩が冷えてきて肌寒かった。  電車がガタンと揺れたから、りっくんの方に寄りかかった。  立って乗ってたら、たぶんもっとくっつけた。  アナウンスが流れて、家の最寄駅が近付いてくる。りっくんが立ち上がるのに続いて席を立って、出された肘に掴まった。  当たり前みたいにしてもらえるの、すごい嬉しい。
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