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3月。キンと冷えた青空。卒業式を行った体育館は冷え冷えとしていた。
小中学を共にした友人たちの大半と、高校では別れることになった。
型通りの卒業式が終わって、最後のホームルームも終わった。担任の先生が「では皆さんお元気で」と少し涙ぐみながら言って、教室のあちこちで鼻を啜る音が聞こえていた。
確かに淋しい、けれど。
…でもあの時ほどじゃない。
小学3年生の時の、りっくんの卒業式。あの時の光を失うような気持ち。
その後の、りっくんに目を逸らされた時の気持ち。
あれと比べたら、他のどの行事も出来事も大した事ないと思えた。
「今回も泣かなかったね、高山くん」
「里田さん」
すすっと寄ってきた里田さんが僕の顔を覗き込んでくる。
「自分の卒業式では泣かないんだね」
里田さんとは小3の時同じクラスだった。
「高山くんが卒業式で泣いたの、あの時だけだね、小3の」
「え、高山小3の卒業式で泣いてたの? なんで?」
里田さんの反対側から声がした。
「…神谷には関係ないし…」
長身の神谷をちらりと睨んで視線を落とした。
神谷聡とは中2からの友人だ。割とイケメンで女の子にモテるのに、なぜか彼女は作らない。神谷と僕は同じ委員になったのをきっかけに親しくなった。
神谷は陸上部だったから、グラウンドを走る姿は知り合う前からよく見ていた。神谷にも「花壇にいるとこよく見てた」と、同じようなことを言われた。
「ほら、あの人よ神谷くん。陸上部にいた三島律先輩! 聞いてるでしょ? 色々。高山くんね、小学校の頃三島先輩とすっごい仲良かったの。だからもう高山くんてば、三島先輩の卒業式でボロ泣きでね」
「さ、里田さんやめてよっ」
里田さんの腕を肘でつついて抗議する。
「へー、なんか意外だな。高山があの派手な三島先輩と仲良かったなんて」
神谷がそう言いながら屈んで僕の顔を覗き込んできた。
「あの頃も高山くんすごい可愛くてね、ぽろぽろ涙こぼして泣いてて、最後には三島先輩が高山くんをぎゅーっと抱きしめて、それがマンガかドラマみたいでみんな声も出せずに見てたんだから」
里田さんは僕の抗議なんか気にもしないで話を続けた。
「…ふーん、抱きしめて。こんな風に?」
突然神谷が僕の身体に腕を回した。とりあえずその腕を押しのける。
「やーめーて、神谷。里田さんもさー、やめて? 昔の話、恥ずかしい」
「恥ずかしくないよー。美しい思い出の1ページだよ? てか高山くんはさ、今でも三島先輩と仲良いの?」
その質問に、ちくりと胸が痛んだ。
「…ううん、もう今は全然。…この前ちょっと喋ったけど」
「そっかー。通学路も違うとなかなか会わなくなるもんね。歳離れてるとそんなもんなのかもねー」
里田さんがあっさりと言ったその言葉が、サクリと心に突き刺さった。
「そういうものだから」って無理に納得させた自分が「イヤだイヤだ」と駄々をこね始める。
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