最終話

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最終話

熱で3日間学校を休んじゃって、蒼君にもかなり迷惑をかけてしまった。 あれほど俺様だった彼は熱でクタクタになっていた僕を甲斐甲斐しく面倒をみてくれてたんだ。 汗だくになったパジャマも身体を綺麗に拭いて着替えさせてくれたり、あまり食べられない僕の為に時間をかけてお粥を口元に運んでくれたりもした。 ”わかりやすく”優しくするって言ってたけど、ここまでしてくれるなんて予想外で、彼のぶっきらぼうで強引な所も嫌いじゃないな、なんて思いだしていて、僕って意外に絆されやすい性格だったんだと結論にいたった。 今日は土曜日で学校も休み。 悠君にメールしたら、今、少年事件でまた忙しくしていて、家には帰っていないというので、蒼君家にそのまま居させてもらうことにした。 今日は大事をとって家でゆっくりするぞ、と朝からまた過保護よろしく、どこへ行くにもついてくる始末。 「もう僕大丈夫だよ?」 そう言っても聞きもしない。 何を言っても無駄な気がしてきた… 以前から距離感はまぁまぁ近い方だと思っていたけど、風邪を引いて寝込んでからベッタリになった気がする。 今もソファの上で後ろには蒼君がいて、お腹の辺りに腕が回ってる、前だったら、恥ずかしくて死にそうだったけど、今はもう慣れちゃった。 「なぁ、お前って血液型なに?」 「え?何急に」 「いいから教えろ」 僕の髪の毛を手でクルクルしながら聞いてくる。 「O型?」 「じゃあ誕生日は?」 「12月24日」 「え?じゃあ去年のあの日って…」 「うん、僕の誕生日」 「何で言わねーんだよ!」 「何でって、毎年1人だったし、言ったところでさ…」 去年の誕生日、本当は悠君が有給を取ってお祝いしてくれる筈だったんだけど、その日の朝呼び出しがあって仕事に行ってしまった。 昨日の間に仕込んで冷蔵庫にしまっていたマフィンの種をどうしようか悩んじゃって、思いついたのが蒼君だった。 僕1人では食べきれないし、かと言って捨てるのも勿体無いな、と。 あそこに持っていけば蒼君や、その時は居ると思っていた彼女?とか前川さん、それにメイドの人達と沢山人は居るから、誰かしら食べてくれるだろうと思ったんだ。 1人だと思っていた誕生日は意外ににも楽しい1日になったから、僕にとってあの日はとても素敵な1日を貰えたと思っていた。 「言えばちゃんとお祝いしたのに!誕プレは用意してないから無理だとしても、歌ぐらいは唄えたぞ」 「歌唄ってくれたんだ、聞きたかったかも」 「俺は歌も上手いんだ!」 あははと笑って後ろの蒼君にもたれかかった。 「うん、上手そう、でもね、僕あの日とっても楽しかったんだ。悠君は仕事でいつも忙しいし、両親が事故で亡くなってから誕生日はほとんど1人だったからさ。だからあの時間は僕にとって大事な1日になっているんだよ、だから蒼君には凄く感謝してるんだ」 悠君は優しい、仕事が忙しいだけで、ほったらかしにされているわけじゃない。 それでもやっぱり誕生日を1人で祝うのは寂しくて、いつも早めに布団に入って目を閉じる、寝ればすぐに朝になるだと。 誕生日なんてただの普通の日だと思えば胸の痛みも少しは癒される気がする、そうやってずっと過ごしてきたんだから…。 「…ごめん…」 後ろから強く抱きしめられ、ポツリと蒼君が呟いた。 「知っていれば…なんて今更だけど、ちゃんと祝ってやりたかったな…」 僕は彼の腕を掴んだ。 「じゃあ今年はお祝いしてくれる?」 「もちろんだ…」 下僕だ奴隷だ、と言われ続け、あれだけ頑張って高校を受験して、逃げ回ったのに、もうダメだな、そう思った。 色々と反則だ、僕は清楚で僕より小さな可愛い女の子が好きなのに…男で態度も身体もデカい男なんて論外なんだ…、論外なんだよ。 急に胸からいろんな想いが溢れてくる…もうダメだよ… 「蒼君、好き…」 「え?」 「好きって言ったの」 自分で言ってて恥ずかしい、こんな事言っちゃったらまた揶揄われちゃうかな。 「もう一回言って!」 「す、好きになっちゃった…下僕の分際でごめんなさい」 両手で顔を覆い、恥ずかしさをまぎらわす。 僕みたいな地味でノロマなんかに好かれたって仕方ないのかもしれないけど、僕の勘違いじゃなきゃ蒼君も同じでしょ?そう思いたいだけかな? 思い切って後ろを振り返って彼を見た。 「だ、大好きかも?」 「かも、ってなんだよ、ちゃんと言え」 「好きです」 途端、身体が浮いてソファに押し付けらた。 僕は目の前に蒼君の顔が迫ってきていてびっくりする。 「キス、してもいい?」 少し照れてる? 「いつもみたいに命令しないの?」 「しない、してもいい?」 綺麗な顔が真っ赤になってる、いつもは眉間に皺寄せてるのになんだか可愛いな。 思わず自分から唇を寄せて触れるだけのキスをした。 「もうしちゃった」 ふふっ、って笑ったら蒼君は天井を見上げて 「あーーーーっ、なんだよ、ったく!!」 と大声で言ってまた僕に顔を寄せた。 「可愛いすぎんだろ」 そう言って優しいキスを顔中にしてきた。 「俺も好きだ、遅いんだよ、お前。」 「ご、ごめんなさい」 最後に軽く唇にまた優しく触れるだけのキスをされ、身体を抱きしめられた。 ちょっと下の方でなにやら違和感があるんだけど、気のせいかな? 「悪い、しばらくこのままで…」 だ、大丈夫かな? 「て、手伝う?」 手伝うってなんだよ!咄嗟に出た自分の言葉に驚いたけど、僕だって男だから、辛いのは分かるんだ。 「いや、今はこのままでいい、でも次は我慢できないかも」 「あり、がとう?」 ぷって小さく笑って”なんだよ、ありがとうって”また顔を見合わせて2人で笑った。 いつもキラキラ輝いていて、少し怖くて、不器用で、ぶっきらぼうで強引で、それでいて優しくて、寂しがり屋。 そんな君を僕は好きなんだろうな、こうして何もしなくても、笑い合ってる、こんな細やかな時間を過ごせる君が大好きだよ、蒼君。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆ あそこでよく我慢が出来たな、と自分でも感心した。 何? あいつ… キスして 「もうしちゃった…って」 あれから暫くソファでイチャイチャしてたら、鈴木の寝息が聞こえてきた。 寝顔を見ながら、誰かと一緒に過ごしたりすることの大切さを初めて知った気がする。 笑い合ったり、泣いたり、怒ったり、何気ない会話やご飯を食べたり、作ってもらったり、その一つ一つがどれだけ楽しくて幸せで、愛おしいのか、今まで欲しかった愛情というかけがえのないものを親からではなく、こいつから与えてもらえるなんて思ってもみなかった。 好きなものが買える、なんでも思い通りになるなんてお金で解決できるものじゃない、人の優しさや愛情からくる幸福。 地味で、鈍臭い、顔なんて全くタイプじゃなし、俺を見てオドオドするのが最初は気に食わなかった。 親に作ってもらったのか、大きな弁当箱に愛情のこもってそうなお弁当、少し甘い卵焼き。 親がいなくて、自分で作ったらしい弁当に自分の不幸を重ねて、少し興味が出た。 あの頃から少しずつ興味が親近感になり、執着が愛情になっていったのかもしれない。 少し硬い真っ黒な髪を撫でる。  「そばに居てくれてありがとう」 人に興味を持つ、愛情の暖かさを知れたのはお前のおかげだ。 寝ている鈴木を抱えて寝室へと連れて行く。 ベットに横たえ、毛布をかけた。 「おやすみ」 こめかみにキスをして寝室をでた。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 部屋の冷蔵庫に飲み物が入ってなくて下のキッチンに取りに行こうと部屋を出て階段を降りた。 途中リビングで何やら声が聞こえてきたので、足を止めリビングのドアを開けた。 「あらっ、居たのね、なら話は早い」 久しぶりに見る顔、俺によく似ているその顔を何年かぶりかで見た気がする。 隣に小さな子供、2歳くらいだろうか?母の横にいた。 「悪いけど、私はあの人と離婚して、今一緒の人と結婚するわ、貴方には悪いけど、今日でもう赤の他人になるから、連絡も何もしないでね」 俺はドアに手を掛け 「勝手にすれば、生まれてからあんたとはずっと赤の他人だけどね」 「何ですって?せっかく産んでやったのに、それが母親に対する態度なの?」 振り返り女をみる、言い合ってびっくりしているのか、子供は母の後ろに隠れた。 「はぁ、母親ね、あんたの顔見たの3年も4年も前だろ、離婚したきゃ勝手にすればいい、どうせ俺に会いにきたわけじゃないだろ、さっさと帰れ」 「可愛げのない事、さすがあの人の子供ね、言い方がそっくり。あんたの事なんて可愛いとも思った事もない、せいせいするわ、さっ、冬馬こんな家さっさと出ましょ」 「へぇー、子供育てられないくせにまた子供作ったんだ、びっくり、あんたに愛情なんてわかるんだ、その内そいつも俺みたいになったりして、おもしれー」 ここまで嫌われてたんだな、他人に言われても何とも思わないけど、流石にこんな俺でも堪えるな… 「何ですって、冬馬はあんたと違ってめちゃくちゃ可愛いわ、優しいしね、あんたとは違う、こっちもせいせいする…」 急にリビングのドアが開いて鈴木が飛び出してきた、そして俺の前に両手を広げて立ち塞がった。 なんで、お前寝てたはずだろ? 「どうしてなんですか?自分の子供によくそんな事が言えますね!それでも母親ですか?あなたが産んだんでしょ?」 「誰?あなた、部外者は出て行きなさい」 「部外者じゃありません、僕は彼のこっ、恋人です」 その言葉に少し嬉しくなる、でも嫌われるほどこの人は俺に会いにも来ていない、話をした事も、抱きしめられたことさえないのに、どうしてそこまで嫌われるのか…まぁ、どうでもいいけど… 「あなた男の子じゃない、気持ち悪いわね、お前にお似合いだわ」 「なんてこと自分の子供に言うんですか!貴方が要らないならぼくがもらいます、優しくてとても素敵ですよ、蒼君は!」 「もういいわ、行きましょう、冬馬」 母に手を引かれドアを出た時、小さな声で”お兄ちゃんごめんね”と小さな声が聞こえたがすぐにドアが閉まった。 スローモーションのように閉まっていくそのドアを俺は暫く見つめ続けた。 結局、話もまともにせず、あの人は言いたいことだけ言って出て行くんだな、そう思った。 「蒼君、大丈夫?」 ソファに座らされ、目の前に立っている鈴木を見た。 「え?」 ふいに顔を上げ鈴木をみた。 困った顔でハンカチを出し、俺の目を拭った。 「あ、大丈夫、いつものこと…」 「大丈夫じゃないでしょ、こんなに泣いてるのに…」 はっと気付いて目元に指を持って行く、冷たいものが指を濡らし、鈴木をみつめた。 「ん、泣いてる」 静かに鈴木は俺を抱きしめて 「僕がついてる、君は1人じゃないよ」 なんであんな酷い事が言えるんだ、母親が帰ってこなくても、いつも待っていたのに、ぶっきらぼうな反応しかできなくても顔を見れば嬉しくて、母も少しでも気にして帰ってきてくれていたんだと思っていたんのに。 なのに、子供まで作って、俺には向けない笑顔まで向けて、俺はやっぱりあの人には必要なかったんだな… でも 「蒼君、君はとても優しいし、かっこいいし、素敵だよ、僕は大好き、ね?だから泣かないで、勿体無いよ、あんな人の為に蒼君の綺麗な目が赤くなるの、ね??」 声が、鈴木の声だけが優しさで満ち溢れている。 俺は彼の身体を強く抱きしめた。 「悪い、ちょっと目にゴミが入った」 「うん、蒼君目、大きいもんね、ゴミも入っちゃう」 「………」 それから何分たったのか、長かったのか、短かったのか。 窓から差し込む光がゆっくりとが赤く染まるまで、俺たちは暫くそこにただ2人で寄り添っていた。 ☆☆☆☆☆☆☆☆ 「ねぇ、蒼君、早く起きなきゃ」 「んー、もうちょっと寝たい…」 カーテンの隙間から陽が差し込んで、僕の顔にかかる。 眩しいし、後ろから抱きしめられているので身動きが取れない。 「んーもう、大学遅れちゃうよ?」 「太一も俺と遅刻して」 「ダメだよ、僕単位落とすのヤダ」 「ならキスしてくれたら起きる」 「もう、なんで毎朝そんなことばっか言うの?」 「お前は俺が好きなんじゃないのか?」 「うん、好きだけど、毎朝確認しなくても…」 「俺は確認したい」 「大好き、好き」 クルッと後ろを向いて唇にキスをする 「大好きだよ」 ちょっと膨れっ面、だけどまだ眠いのか目が半分くらいしか開いてない。 「合格、お前はもっと言葉で俺に愛情を伝えろ」 ほっぺにまたキスをして 「はいはい、わかりました、すっんごく大好き」 また唇にキスをした。 「ねぇ、甘い卵焼き食べたくない?」 「食べたい、太一の卵焼き、美味しいから好きだ」 「卵焼きだけ?」 「…太一、好きだ、これからも一緒にいて」 「了解です」 普通の朝、普通の日常、普通の生活。 暖かい部屋に暖かい恋人、暖かい居場所に優しく見守ってくれる人達。 この先どうなるかわからないけど、この普通の日常がこれからも続くといいな、大切な人との時間が愛のある未来になる事を2人で紡いで行ければいいな…。 「蒼君、大好き」                      end
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