太一 side

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太一 side

学校生活に置いて僕が重要視しているのは3つ。 1.とにかく目立たず薄い存在でいること。 2.ぼっちにはならず、最下層のグループで穏やかにすごすこと。 3.カーストトップには近付かない、逆らわないこと。 僕がこの高校に決めたのは家から徒歩15分で超難関高だった事が1番大きな理由だった。 家から近いが偏差値はめちゃくちゃ高く、そこまで頭脳明晰でもなかった僕はめちゃくちゃ頑張って受験を乗り切った、それはもう寝る暇も惜しんで四苦八苦しながら受験勉強に取り組んだ、そう、必死になって頑張ったんだ。 合格した時、僕の叔父さんは小躍りし、友人一同を呼び出して、合格パーティーを開催したくらい大喜びだった。 じゃあ何故そんな無謀にも思える程の進学校を僕が受験したかと言うと、それは一重に僕の学校生活を静かに且つ穏やかに過ごす為、としか言いようがない。 僕自身中学からクラスの中では薄ーい存在で、ラノベで言うところの”モブ”くらいの立ち位置だった。 僕はそう言う立ち位置だったはずなのに… そんな目立たない存在だった僕が、ある1人のクラスメイトのおかげでパシリにされるわ、リア充達に囲まれて良いように使い回され挙句違う意味で目立つ”モブ”になってしまったのだ。 卒業の半年前からそのクラスメイトから受験校の事を散々聞かれたが、適当に流して決して言わなかった、まぁ言ったとしてもあいつはそんなに成績も良くなかった筈だからここに入学してくるなんてありえない。 そう、僕は自由勝ち取った! この門を抜けると僕の超平凡モブライフ生活が始まる! 誰にも邪魔されない素敵な素敵な高校生のはじま… 「よぉ鈴木、久しぶりだな。」 ”り”を言う前に後ろから声が聞こえてきた。 僕の頭の中で2度とこいつの声は聞くものか!と思っていたあいつの声だ 伸ばした足を引っ込めて動けなくなる。 「何?無視する?いい度胸じゃねぇか。」 肩にポンと手を置かれて耳元で囁いた。 冷や汗が背中を伝い流れていく、その声の主とはもう金輪際会う予定のなかった人物で、僕のハッピーモブライフをハッピーじゃなくなす相手に間違いはなかった。 「俺から逃げられるとでも思っていたんだ、傑作」 恐る恐る振り返ると超イケメンが最高の笑顔で微笑んで僕の前に立ち塞がっていた。 誰であろう、僕を中学時代振り回した張本人、新城寺蒼、その人であった。 学年一の人気者でバスケ部のキャプテン。 成績はそこまでじゃない筈だったけど、え?なんで? なんでここにいる? 「お前、俺が馬鹿だとでも思ったのか?ありえないだろ、何しても人より出来るからちょ〜っと手を抜いて楽してただけだってわかってなかったんだ、ウケる」 「あ…し、新城寺君…な、なんで君がここに??」 「あ〜お前俺が慶明にでも行くって思ってた?ざ〜んねん」 新城寺は僕の肩に腕を回し耳元でこう言った。 「お前を手放す訳ないだろう、これからもお前は俺の犬なんだから」 犬なんだから…犬なんだから…犬なんだから…耳に何度も何度もこだまする。 終わった…完全アウト!人生終了のお知らせが脳内にちらつく。 僕のハッピーモブライフ… 目立たず騒がず大人しく過ごす筈だったのに… 「今日からよろしくな、鈴木太一くん!」 そして僕は高校生活をポチよろしく新城寺蒼の忠実な犬になる事が決まってしまったのだった。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 朝から僕は忙しい、何故って? まず起きたらアラームよろしく新城寺に電話でモーニングコール。 着替えや歯磨きをした後はパンを片手にお弁当作り。 もちろん2人分。 中学時代から作り続けているので、スペック上がりまくりでリクエストされればキャラ弁だって作れるほどの腕前だ。 そう、僕は新城寺蒼にお弁当まで作らされている、とは言っても材料費と手間賃、これを入れる為のリュクまで買って渡されたので、あまり文句も言えないんだけどね〜、うち貧乏だから僕の弁当代まで出してくれるのは正直助かる。 とにかく、制服に着替え作った弁当を忘れずに7時40分にアパートを飛び出した。 ここから10分ほど歩くと新城寺の家に到着。 いつ見ても大きな家だ、見上げる首が痛くなる、うちのアパートって彼の部屋?いや、トイレくらいだったりして。 新城寺の部屋には入った事ないからわからないけど。 呼び鈴を押すと大きな門が開き、玄関から執事の前川さんが出てきて中へ入れてくれる。 玄関で待つ事5分。 欠伸をしながら吹き抜けになった階段から新城寺が降りてきた。 なんだよこいつ、僕が朝早くから弁当の用意して迎えにまできてやってるのに、欠伸なんてしやがって、マジでムカつくな。 スニーカーを履き手を差し出してくる。 その手を握って前川さんに行ってらっしゃいの挨拶をされ、彼の家を出る。 ここまでがいつもの行程。 なんで手を繋ぐのかって? そーだよね、僕も思うんだけど、中学の時に何もない所で転んだ僕は作ったお弁当を落として食べれなくしちゃったことがあったんだよね。 それで激怒した新城寺が俺の弁当に被害があってはと強制的に手を繋がされることになったんだ。 これに関しては僕が悪いんだけど、それならお弁当持ってくれたらいいだけの話だと思うんだけど、本人曰く、重いものは持ちたくないのだそう。 ね?ムカつくでしょ? なんで男同士で手なんか繋がなくちゃならないんだ。 僕のタイプは背が低くて地味でお淑やかな女の子が好みなんだ、何が悲しくて僕より20cmも背が高くて俺様ないじめっ子、しかも男なんだよ?ムリでしょ? 「お前、学校終わってからの予定は?」 「今日?今日は久しぶりに悠君が帰ってくるから、いっぱいご飯作って待っとこうかな、と思ってるけど…」 「俺には?」 「え?」 「俺にも作れ、作って家にもってこい」 「で…でも悠君と一緒にご飯…」 手を痛いくらいぎゅっと握られて目を細めて睨まれた。 「命令」 そう言って上から目線で偉そうに指示してきた。 は? 何こいつ、ぼくが悠君に会えるのなんて久しぶりだってわかってて言ってるの? ちなみに、悠君は僕の叔父さんで、仕事が忙しくてなかなか会えないんだ。 帰ってこない日も多いので仕事場に着替えを持って行ったり、ご飯作っては弁当箱に詰めて持たせたりするんだけど、帰れる日以外は作らなくても良いって言われたりする。 両親が亡くなってからは叔父さんが引き取って育ててくれたから、僕にとってはとても大切な人。 ちょっと天然で、僕と似てるからやっぱり他人じゃないんだな、と思う。 なのに、なのに、新城寺のとこに行って家に戻ったら疲れてる悠君は絶対寝ちゃってる!! なんで僕、こいつに逆らえないのかな、ほんとこのモブ気質、身に焼き付いてるから右って言われると尻尾振っちゃうんだ犬みたいに… 「返事は?」 「はい…」 何が嬉しかったのか突然やつの機嫌が良くなった。 「とりあえず昼飯、屋上で食べるから」 「…わかった…」 どこまで行っても僕って本当に運がないんだな、そう思いながら手を繋がれたまま教室に向かった。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 僕の立ち位置はあいも変わらず”教室に居ても目立たない生徒”だけど、そこにクラスの人気者新城寺が横にぺったりと張り付いているので、周りからは”なんであんな地味なやつが彼の横に居るんだ”とか”メダカの糞”(金魚より劣るから)だとか言われて中学にも増して嫉妬や憎悪の対象にされている訳だけど、違うよね?僕、下僕だよ?別に弱みを握られている訳じゃないけど、ヒエラルキーには逆らえない小物なんだよ、僕は。 で、今どんな状況かって言うと… 「ねぇ、君って新城寺君のなんなの?」 「そうそう、そんな冴えない顔してなんでいつも隣に陣取ってる訳?」 「登校してくる時も手なんか繋いじゃって、調子にのってるんじゃない?」 ここは体育館裏、肩を押されて体育館の壁に追いやられています。 人数は3人、この学校は男子校なので、女子に言われてるんじゃなくて、男子に追い詰められてます、僕。 この展開は中学の時にもよくあって、いつも頭の片隅で”漫画のような展開”なんて思ってたっけ。 まさにその展開が繰り広げられ、僕は壁に背を向けて3人の美少年達に囲まれている訳です。 「えっと…どっちかって言うと僕は奴隷だったり下僕って感じで…」 「僕だって奴隷になりたい」 「僕も」 「僕だって!!」 僕の場所なんていくらでも譲ってあげたい。 あいつから逃げるためだけに、こんな身分不相応な学校に必死で入学したのに、結局元のまんまだもん。 肩を小突かれさっきにも増して3人に睨まれ囲まれる。 あ〜神様、僕の学園ライフはどうしてこうも前途多難なんでしょう… 「お前ら何してんだ?こんな所で」 壁に寄りかかり腕組みして話題の人物、新城寺がそこに立っていた。 僕を囲い込んでいた3人は少し驚いた様子でそちらを見る。 「し、新城寺君、僕たちは彼にちょっと諭していただけだよ?君に近寄るな、って」 「そう、そうだよ、だって邪魔でしょ?そんな地味な子」 あ、なんかわかんないけど、怒ってる、微妙だけど、彼が怒ると少しこめかみがぴくってなるんだ、たぶん下僕と化してる僕しかわからない変化。 近付いてきて3人の間に割り込み僕の腕を掴むと後ろから抱き込まれ 「こいつはさ、俺の奴隷な訳、君たちは違うでしょ?見てるだけで癒される観賞用、美しい君たちは奴隷になんてできないだろう?」 3人達の顔がパッと明るくなって頬に赤みが指す。 「新城寺君!そうなんだ、なら仕方ないよね、でもあんまりベタベタしないでほしいな、ね、皆んな!」 「うん、そんなジミー君と一緒じゃ、新城寺君が霞んじゃう」 「うん、僕もそう思う!」 「霞む?この俺が?」 やばい、やばいよ、めっちゃ怒りのオーラが前からでもわかるくらい出てる、今度はワントーン声が低くなったからMAXで機嫌悪いよね、これ。 一気に場の空気が変わったの、美少年君達も感じて3人とも顔が真っ青になってる! 何とかしなきゃいけない、ならここは僕の出番だよね… 「あ、あの、僕が引き立て役になってるので、新城寺君はきっと輝いていると思います!ね、そーでしょ、みなさん!?」 「そ、そうだね」 「うん、誰が横に居てもか、カッコいいもん新城寺君」 「ま、間違いない!!」 怒りは消えてないけど、笑顔の下に張り付いてる怒りのオーラは消せてない。 「あ、昼休みの時間終わっちゃうよ、新城寺君、いつもの所でお弁当用意してるから早く食べちゃおう」 ほらこっち、と手を引っ張って体育館から程近い大きな木の下に連れて行く。 シートの上に座らせて手際よくお弁当を並べる。 「そんなに怒らないで、新城寺君リクエストの甘い卵焼き作って来たし、今日は甘酢の肉団子も入れてきたんだ、これで機嫌直して」 卵焼きを箸でとり口元に持っていく。 なんだかんだと、彼は食べ物に目がないので、卵焼きを頬張ると笑顔は見せないものの、怖いオーラは消えてなくなった。 「おいしくできてるかな?」 「……うまい……」 ほんとに邪魔くさったらないよね、なんで僕がここまでして機嫌取らなきゃいけないんだ、って思うけど、何気に僕は自分の作ったものを”美味しい”と言って食べてくれる人は大好きなんだ。 やつが好きな訳じゃないけど…。 それから箸を僕から奪い取り大きなその弁当を平らげた。 少しは機嫌が良くなったようでよかった、僕の安寧な日々の為にも、機嫌は良くなってもらわないとね。 「口元にご飯粒」 奴の口元についたご飯粒をひょいと取り自分の口に入れて食べる、僕は一粒もお米を無駄にしたくないんだよね、でもされた本人は顔を真っ赤にして驚いていた。 え?なんで? 「あ、ごめん、気に入らなかった?ならもうしないから」 「な、何を言ってる、下僕なら主人の身だしなみを正すのは当たり前だ」 そうなんだ、そこはしても大丈夫ってことね、ってか、奴隷なのか下僕なのかこいつ本当にややこしいな。 と言うわけで、混乱をきたした昼休みは終わり、授業も滞りなく済んだ。 ちなみに、僕と新城寺のクラスは別なので、毎回休み時間には彼のクラスに行き、次の授業の用意をしたり、トイレに付き合ったりとご奉仕の時間は帰宅するまで終わらない。 中学からだからもう慣れたけど、結局高校もこんな感じなら友達の1人もできないんだろうな、そう思いながらまた新城寺に手を引かれ彼の家まで送迎した。 「じゃあ夜にな」 玄関でそういい残し振り向きもせず部屋に続く階段を登って行った。 執事の前川さんが 「お疲れ様でした、今夜いらっしゃると言うのは?」 と聞かれたので、事の詳細を話し、夜19時にはこちらに伺う段取りをつけた。 「では本日の夕食はキャンセルしておきます、食後のお茶などはこちらで用意しておきますね、いつも坊ちゃんがご迷惑をおかけします」 「いえ、これももう仕事みたいなものですので…」 僕の内なるボブ気質は最近下僕気質に変わりつつある。 まぁこれも後3年! 「ではそのまま坊ちゃんの秘書やこの家の執事にでも如何ですか?」 な、なんですと?? 絶対嫌に決まってるじゃないか!! そう言って丁重にお断りを入れ新城寺家を後にした。 前川さんも冗談なんて言うんだな、そう考えながら近所のスーパーによりいつもの倍の食材を買い込んだ。 何はともあれ、アパートについたら悠君には会える! 奴のせいで長くは一緒に居られないけど。 おのれ、新城寺蒼め!! ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ いつも帰ると鍵が開いてるので、今日はドアノブをそのまま引いた。 けど、開かない。 まだ帰ってないのかな?? 鍵を取り出して開けるが玄関に脱いだ靴もない。 台所に荷物を置いてテーブルの上にあるメモを取り上げた。 ”太一へ ごめんね、事件があって招集がかかった。とりあえず着替えだけもって署に戻るね、ホントにごめん! 事件が片付いたらご飯でも奢るから!あと、今月の生活費置いときます。               悠” また事件なんだ、日本も物騒になってきたよね。 まぁ、刑事さんだから仕方ない。ご飯お弁当に詰めて新城寺の家に行く前に持って行こう、会えるかどうかはわかんないけど。 けど、ぐるりと部屋の惨状を見渡してため息が出た。 ヨロヨロになったスーツは脱ぎっぱなし、靴下や下着も風呂場まで続いて放り投げている。 悠君の部屋が開けっぱなしで、部屋の中もものの見事にぐちゃぐちゃになっている。 急ぐのはわかるけど 「はぁ、手のかかる子供が2人って…」 またもや大きなため息が僕の口から溢れた。 悠君は悠君で、新城寺とは違う主人公気質の人。 ま、影で支えるのは僕みたいな一般市民ボブだよね。 これも使命、支えます、徹しますよ、モブに! 部屋を片付け、夕食作りに取り掛かる。 料理は好きだから苦にならないしね! 悠君と少しは話せると思ったけど、仕事なら仕方ないな、早く作ってこれ持って行こうと、出来上がった食材をタッパーに詰めて二つ分を鞄に詰めた。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「あの…生活安全課の鈴木の親族ですが…」 警察署の受付で、いつものように声をかけた。 見知った受付の人が”渡しとくね”と、受け取ってくれたので、そのまま暑を後にした。 家から警察署までは電車を使って30分、そこからまた戻り電車と徒歩で40分かけて新城寺の家へと向かった。 15分の遅刻。 怒鳴り散らされるかな、嫌だな… 門のベルを押そうとしたら、自動で大きな門が開いた。 玄関では扉を開けた前川さんが、中には仁王立ちした新城寺が立っていた。 ひぇぇっ、怒ってんじゃん! 「遅い!」 「ご、ごめん、悠君の仕事場にお弁当持って行って遅くなっちゃった」 恐る恐る奴の顔を見てリュックの肩紐を握りしめた。 「お前は本当にノロマだな、早く上がって飯食わせろ」 とスタスタ階段を上がっていく。 「さ、鈴木様」 スリッパを勧められ奴の後を追いかける。 足の長さが違うから、いつも僕は小走りになる。 初めて家に上がったけど、部屋までどれだけ歩くんだよ、僕ん家なんて玄関上がったらすぐ台所なのに。 ドアの前で奴が待ってる、あそこが自分の部屋なんだろうな、また少し小走りでそこまで行く。 ドアを開けて先に入るよう促され恐る恐る脚をすすめた。 うわぁ、なんだこれもう部屋がマンションじゃん。 材料持ってきたらここで作れるよ、スゴイ! 中に入ると僕が欲しくてたまらないオープンキッチンが! 「すごく素敵なキッチンだね、羨ましいなぁ。こんな所でご飯作ってみたい」 今僕はキラキラ光ってるんじゃないかってくらい目が眩んでる。 「毎日作りに来ても良いぞ、お前も食べていけば食費浮くんじゃないか?」 いつのまにか後ろから抱き込まれ、耳元で囁かれる。 「え?」 「どうせ”悠君?”殆ど家に帰って来ないんだろ?なら食材冷蔵庫に用意させとくから、作りに来い。」 こいつにしては良い提案!どうしよう、うん、って言いたいけど、そうなると一日中こいつの顔を見なきゃならない。 それはそれで嫌なんだけど、ちょっとでも節約できるなら… 抱き込まれた腕を握って振り返る 「いいの?悠君いない時だけだけど、いいのかな?」 「俺はずっとでも良いけど、お前が好きな時に来ると良いよ」 「ありがとう、食費浮くから嬉しい、こんな素敵なキッチンも使えるし僕幸せ」 「じゃあお礼してくれ、いつものやつ、ほらこっち向け」 クルっと向き合わされて腰を抱き寄せられる。 いつものやつってアレだよね? 「ありがとう」 背伸びをして新城寺の頬にキスをした。 僕これ苦手なんだよね、なんでも彼は幼い頃海外で過ごしていたらしく、お礼にはこうやって頬にキスしていたらしい。 ちょっと気恥ずかしいから、いつもし終わった後は顔が見れない。 その後、彼は僕をギュと抱きしめて 「良くできました」 と髪を撫でながら言うんだ。 「ね、作ってきたご飯食べよ、今日は新城寺君の好きなピーマンの肉詰めとアスパラのベーコン巻き作ってきたんだ、オニオンスープもあるよ!」 またギュッと抱きしめられる。 「美味そう」 「温っためるね」 それから2人で初めて彼の部屋でご飯を食べて家に帰った。 メールには”弁当はシャケ、夜はハンバーグな” と書いてあった。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 入学から半年、この学校は進学校だけあって部活はそこまで盛んじゃない、けど、バスケとサッカーだけは推薦で生徒を入学させているらしく、かなりの強豪校らしい。 僕の主人、新城寺は推薦で入学はしていないけど、顧問の先生は本人を知っていたらしく入部を勧められていた。 最初は断っていたようだけど、本人もバスケは好きなようで、仮入部って形で入部した。 暫くして、推薦で入学した生徒達より新城寺はすぐにエースとして活躍しだし、僕は部活が終わるまで教室で待つことが増えてきた。 家に一度帰る事も出来ないので、待っている間は補習をし、部活が終わると2人で新城寺の家にそのまま帰るようになった。 すると新城寺が平日は彼の家に泊まって学校に行けばいいと提案されたので、悠君にメールで相談すると、少し前から前川さんと連絡を取り合っていたみたいで、僕は新城寺家から学校に通うことになった。 お弁当や、夕食作りもそのまま継続なので、彼の家に泊まる以外はなんら変わりない、ただ、2つだけ納得できない事が増えた。 「風呂入るぞ」 「う、うん」 1つ目、何が悲しくて男2人で風呂に入らなきゃならないの? 新城寺曰く、ご主人様の身だしなみは僕が綺麗にしておかなくちゃいけないんだって。 と言ってもここまでは…と断ったんだけど、結局押し切られお互いに洗い合いっこする事になった。 僕は自分で洗う、って押し切れず、下僕が小汚いと主人が恥ずかしいと言う事らしい。 最初恥ずかしくてタオルを下の部分に巻いて入ったけど、するりと取り除かれて裸で入る事になった。 相手は鍛えた身体だけど、僕はひょろひょろのもやし野郎なので、筋肉もついてないし、あ、あそこも(男の大事な所)顔を覗かせていないので、見せられるようなものでもないんだよ。 しかも毎回奴は立派なものをガンガンに立たせているから、最初はびっくりしたんだよね。 僕を見てそうなってる?って言っちゃったら頭叩かれて ”部活で疲れて大きくなってんだ”って怒られた。 ま、そらそーか。 で、手で出すよう強要され1人じゃ恥ずかしいからと、僕も触られてしまう。 いつの間にか膝の上に乗せられた。 「や、やだぁ、そんなとこ触らないで…」 乳首を指で摘んでグリグリして僕はなんだか身体の奥の深いところがきゅんきゅんしてくる。 「そんなとこってどこ?言わないとわからない」 目の中を覗かれ頬をペロッとイヤらしく舐められる。 「そこ、いまのとこぉ、やだよぉ…」 頬を舐めた口元を乳首に持ってきた。 「ちゃんと言えたらやめてやる、どこだ?」 その間にも反対側の乳首を指でグリグリ押し付けてくる。 「こっちだけで満足できるのか?」 もうやだぁ、なんでこんなに焦らすの?? 「ち、ちくびぃ、ちくび舐めて」 目を細めて僕を見る。 「よくできました、下はどうする?触ってほしい?」 グリグリとちんこを僕のちんこに擦り付けてくる。 敏感になった所からトロトロと粘ついた蜜が溢れて止まらない。 もう、やだぁ。 我慢できなくなっちゃううううっ。 彼に泣きながら抱きついちゃって 「ちんこ触って欲しいぃぃっ」 大きな声で叫んじゃった。 「お前は素直だな、正解だ」 片方の乳首を舌で舐めながら、もう片方は指で摘んでは押し付け、もう片方の手は彼と僕のちんこを擦り付けた。 「やだ、やだ、いっちゃう〜イっちゃうよぉぉっ〜」 「可愛いな、一緒にいこうぜ!」 「ああっっっっつ!!!」 「うっっ」 プシュと盛大に吹き出した白濁した蜜がそこら中に飛び散った。 僕はビクッビクッと身体が痙攣して動けなくて、彼がそれを支えてくれた。 「良くできました、太一気持ち良かった?」 「……うん……」 髪を撫でて僕をそのまま抱き上げ一緒にお風呂に浸かる。 後ろから抱き込まれた僕は力が抜けて動けないので、そのまま彼に身体を、預けた。 「毎晩気持ちよくなれて良かったじゃん、俺に何か言う事ないの?」 「新城寺君…」 「名前だろ?呼べよ」 「…蒼君、気持ちよくしてくれてありがとう」 ごめん、もう髪とか洗えないや、そう付け加えると、黙って彼は洗ってくれた。 ってか、これってもう主従関係のそれ超えてない? んー、もう何も考えられないくらい頭がふわふわしてる。 お風呂を上がってまず下僕は主人の髪を乾かさなきゃならない…んだけど、何故か僕が乾かせてもらってます、はい。 良いのかな?でも逆らうとまた面倒だし。 「気持ちいい」 「お前の髪、案外柔らかいんだな以外に。」 「うん、僕昔から癖毛で髪あちこちに飛び散るの、だからこれくらいがベスト」 乾き切って交代しようとしたけど彼は自分でささっと乾かし出した。 「ごめん、僕するよ?」 「お前がやるより俺のが早いからいいよ」 ここに通うようになって、荷物を持ってこようと思ったのに、その日帰ってみるともう着替えやその他諸々はもう用意されていて、僕が用意する必要がなかった。 今来てるパジャマだってなんだかとてもお高いのか凄く着心地がいいんだ、サラサラしていてとっても柔らかいの。 しかもなんでか彼とお揃い。 僕がパステルブルーで彼は濃紺。 あれかな? 飼ってる犬にお揃いを着させてる的な? まぁ、機嫌良さそうなのでこれでいいか、ってなってる僕も僕だよね。 「もう寝るぞ」 そう、これだよ。 2つ目、寝室が一緒で同じベットってこと。 ありえなくない? ベットはめちゃくちゃ大きいので、2人で寝るには充分なんだけど、それでも男2人でって。 これもめちゃくちゃ抵抗したけど 「お前は俺を温める役目がある」 何それ? こんな高級な羽毛布団に包まれて温めるって。どんだけ寒がりなんだよ、そう思ったけど機嫌悪くなったらまた邪魔くさいので一緒に寝る事にしたんだけど 「あ、あの新城寺…」 「お前、名前で呼べって何回言わせる?」 「あ、蒼君、なんで僕こんなにギュッてされてるのかな??」 「湯たんぽだろ、お前、抱えなきゃ暖かくならないじゃん」 あーーっっ、そう来たか。 「で、でもこの布団めちゃくちゃ暖かいよ?」 「それでも寒いって言ってんだ、黙って俺を温めろ」 腕枕されて正面から抱きしめられている、これってダメなやつ。 僕も夢見た彼女にするやつ!! なんでだよ!なんで男にされてんの?俺。 文句も言えないダメな僕。 まぁ、機嫌いいから良いかな、と結局ここに落ち着く。 そして僕はなんだかんだと悪態をついていたくせに、ぐっすり眠って、気持ちのいい朝を迎えるんだ。 くそっ、スプリングのいいベットと肌触りのいい布団め! と布団のせいにして起きたら彼に腕を引っ張られてまた布団の中に引き込まれる。 「あ、蒼君、僕朝ごはんの用意とお弁当作らなきゃ」 朝は大抵後ろから抱き込まれてるんだけどね。 「昨日のうちに朝ごはんと弁当は前川に頼んであるから大丈夫、もうちょい寝る」 とこんな朝の始まりが続く。 サラサラの髪、くっきり二重の少し吊り上がった瞳。 まつ毛がめちゃくちゃ長くて綺麗な鼻筋。 僕のペタッとしたちいさな鼻とは大違い。 頬に手をやり 「綺麗だなぁ」 と心の中で言ったつもりが口に出ていて自分で驚いて手を引こうとしたらその手を取られた。 「へぇ、お前俺の顔好きなんだ?」 今、僕はきっと真っ赤になってる。 「えっ?あっ?う、うん、好き」 「もう一回言って」 「え?綺麗だなぁ?」 「違うその後のやつ」 「好き?」 「もっと」 「好き」 なんか急に恥ずかしくなって布団に潜り込んだ、違う、彼が好きな訳じゃない。 顔が好きなだけ…? 彼も布団に潜り込んできて顔を覗き込んできた。 「俺が好き?」 「え?あっ?」 顎を手で掴まれて 「答えろ」 って。 黙ったまんまでいると彼はため息をついて僕を見つめた。 「ま、そのうちにって事でいいや、起きるか」 布団を跳ね除けて起き上がり、僕に手を差し出した。 「ほら」 なんなんだよ、さっきのやり取りって何? 好きってなんだよ、なんで僕にそんな事聞いてくるんだよ。 甘い雰囲気出すって反則じゃない? 僕は冴えないジミー君なんだよ、主人公の隣にいても僕はただのモブなんだ。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 今僕達は電車に乗っています。 どうして?と思っている方いらっしゃると思います。 そうです、バスケ部の対外試合で郊外の強豪校と試合をする事になり、今は電車で向かっている訳です。 なんで僕も同行する事になったのか?新城寺に無理やりバスケ部のマネージャーにされまして、こうして一緒に相手校に向かっているんです。 なんて。 僕なんて予習復習しないと追いついていけないのに、マネージャーなんてしちゃったら進級できるのかも、もの凄く心配なんだけど、試験前は彼が教えてくれるそう。 ”大船に乗った気でマネージャー業務を果たせよ”と言われてしまった。 マネージャーと言っても、僕はスコアだってまともにつけれないから、邪魔にしかならないのにさ。 一応、飲み物配ったり、タオル渡したり、それくらいは頑張ってこなしてるんだけど、僕役に立ってるのかな? それにしてもこの電車、土曜日なのに結構混んでる。 バスケ部の人達は皆んな背が高いし、身体も大きいから良いけど、そんな人達からしたら僕はチビなので人に揉まれて潰れちゃいそうだ。 「お前そんなとこに居たら押し潰されるぞ、こっち来い」 腕を引っ張られドアに押し付けられ囲われた。 なんかとっても近い気がするんですが… 僕と彼の身長は20cm違うので、ここからだと顔を見上げなきゃいけない。 「ありがとう…」 「素直じゃん」 「僕はいつも素直だよ、蒼君が意地悪するから素直じゃなくなるだけで…」 彼が片手で髪を掻き回した。 「俺はいつも優しいぞ?お前が気づいてないだけで」 そう…なのかな? 今まで振り回されてばっかり、と思ってたからそんな風に考えた事なかった。 一緒に住むようになってから少しだけそう感じる時はあるけど、まだ自分ではわかんない。 「わかりにくい…です…」 僕がグリグリ額を押し付けていると、ため息が聞こえてきて、手で頭をポンポンとしてきた。 「了解、もうちょい”わかりやすく”するな」 主人公様がなんで記憶にも残らない僕みたいなモブに優しくするんだ。 ただ穏やかで静かな高校生活を送りたかっただけなのに、そんな風に言われると僕がちゃんと物語の一部だって言われてるみたいだ。 そんな優しくされると好きになっちゃうじゃん。 釣り合わないってわかってる、もしかしたら冗談かもしれない、揶揄っているだけかもって思ってる。 「好きかも…」 「ん?」 小さな声で囁いたからきっと聞こえない、まだはっきり”そう”と自分でも自覚できてないから今はこれくらいで。 「ううん、何でもない」 試合は新城寺の活躍で僅差であったが勝利した。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 人は何かを自覚すると、その行為がどんなものであるかを思い知る。 今まさに僕がそんな状況下にあるって、あの練習試合の時の新城寺とのやり取りで徐々に理解していた。 それは試合から何日か過ぎたある朝のこと。 昨日の夜から何となく身体がだるいな、と思っていた僕はいつもの時間に目が覚めた。 色々悩み出すといつも体調を悪くするのは僕の癖みたいなもので、たぶんそのせいで今きっと熱が出ている。 僕ん家じゃないから体温計もないわけで、あ〜どうしよう?とか天井を見ながら考えていたら隣で寝ていた新城寺と目が合った。 「おはよ…」 掠れた声で呼びかけたら彼は突然起き上がり、僕の額に手を置いた。 「何、お前熱あんじゃん?」 「…ん、そうかも?ちょっと身体だるい…」 「ちょっと待ってろ」 ベットから降りて誰かにメールを送った新城寺はリビングの棚から何かを取り出し戻ってきた。 ひえ◯たシートを僕の額に張り、ノックされたドアを開けて渡されたものをそのまま僕のところまで持って来た。 「とりあえず水飲んで」 ベットの上で僕を背後から抱き締める形で起き上がらせ、ペットボトルに突っ込んだストローを差し出した。 「ついでに熱も測っておこう」 そう言って脇の下に体温計を押し当てた。 なんか甲斐甲斐しいなぁ、いつも1人の僕は熱を測って水分を取るだけ、優しい言葉もなければこうやって甲斐甲斐しく面倒を見てくれる人もいない。 「38℃、結構高いな、今日は学校休むぞ」 うん、と頷いた僕は熱のせいなのか後ろに居る新城寺にもたれかかった。 また誰かにメールを送った彼は粥の入った椀を手に取り蓮華に掬った粥を差し出した。 「薬飲まなきゃだから少しだけでも食っとけ」 ゆっくり時間をかけて粥と口元を往復させ、もういらないと言うと、盆の上に置いてあった薬を取り出し僕の口に押し込んだ。 「俺も一緒に休むから、お前は心配せずにゆっくり寝とけ」 何度も頭を撫でながら僕をまたベットに寝かせた。 後の事は熱のせいで朦朧としていてあまり覚えていない。 だけど、薄らと新城寺が時折りシートを張り替えたり、熱を確認したり、水分を取らせたりしてくれていた事くらいは薄らと記憶に残っていた。 いつもは僕のこと下僕や奴隷の様に”あれしろ、これしろ”と指図ばっかりするのに、なんだかこの日の新城寺は人が変わった様に優しく甲斐甲斐しかった。 両親が亡くなって、悠君と一緒に住むようになってから、悠君の生活能力のなさや、彼に迷惑をかける事なく、1人で何でもこなして来た。 病気の時もそう。 誰かに頼りたくても誰も居なかった。 気の張った心が少しの優しさでこんなにも揺らぐなんて思っても見なかったんだ。 「あり…がとう…」 これは熱のせい、そう言い聞かせたが、溢れる涙が頬を伝った時、新城寺が親指で涙を拭いながら 「大丈夫、何も考えずお前は俺に甘えてろ」 と優しく微笑んで僕に囁いた。 この時もうすでに彼が僕にとってとても大事な人になっているんだな、そう思った。 落ちていく気持ちが止められなくなる。 薄れゆく記憶の中で、僕はぼんやりとそう思いながら眠りについた。
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