少年

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 ぼくたちは服を脱いで、思い切り絞った。  もう一度着たりはしないで、志崎くんのランドセルからコートを取り出す。少し濡れていたけれど、内側は無事だった。  休憩所の石床に寝転がって、コートを横にしてめいいっぱい広げて二人で被る。石床は次第にぼくたちの体温を吸い取って、じっとしていればそれなりに暖かいままでいられた。  志崎くんは、休憩所の天井を見上げていた。黒々とした瞳はなにも語ってくれない。ぼくが何度大丈夫だと言ったって、志崎くんはもう、なにも答えてくれなかった。  ぼくのせいだった。  ぼくが志崎くんの『なにか』になりたがったせいで、いま、志崎くんは悲しい思いをしている。ぼくが見せた夕焼けだって、きっと曇天に塗り替えられてしまったはずだ。  山の麓に置いてきた志崎くんの教科書は、きっともうぼくたちよりぼろぼろのぐちゃぐちゃなのだろう。 「志崎くん、ごめんなさい」 「どうして謝るの」 「ぼくが連れてきたから、いま、志崎くんは悲しい思いをしているんだろう?」 「少し、違うよ」 「どう違うの?」 「おれが満島に着いて行きたいと思ったから、帰る場所がなくなってしまったんだ」  志崎くんの言葉は、ぼくの心臓をちりちりと焼いていった。志崎くんは天井を見るのをやめて、体ごとぼくと向かい合う。ぼくたちの距離は一気に近くなった。  逃げたいと思ってしまった。  志崎くんに責め立てられて、燃やし尽くされてしまう気がしたのだ。  だけど、離れようにも石床がざり、と皮膚を擦るし動くと寒い。どうにもできないまま、ぼくは志崎くんに捕まった。  二の腕を痛いほど、ぎゅう、と掴まれる。 「痛いよ」 「おれも痛いよ」 「ごめんなさい」 「怒っていないよ」  志崎くんの背中が少し丸くなって膝と膝が優しくぶつかった。 「おれ、どうしよう」  ぼくにも、どうしていいのか分からなかった。  志崎くんがどうしてこんなに悲しそうなのかも分からないから、どんな言葉をかければいいのかも分からない。    ぼくは必死に記憶を手繰り寄せる。  悪い夢に泣き喚くぼくを見て、お母さんはどうしてくれていただろうか。お母さんの顔を思い出すと、お母さんの腕の中の温もりも思い出してしまった。ごめんなさいと謝って、優しくぼくを許してほしい。  柔らかいパジャマでぼくを包んで、笑って欲しい。  だけどぼくには、そんなことを願う権利が無いのだ。ぼくは志崎くんを悲しませてしまったから、ぼくはもう、何者かになることをも諦めて、ただ志崎くんを思うことしか許されない。  ぼくは志崎くんの腕にできるだけ優しく触れた。  そして、お母さんにしてもらったことを、志崎くんに返すことにした。
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