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「あ! いた!」
「……え」
まさか。来る途中何度も、もう居ないんじゃないかなって、こんなに寒いんだから暖かいところに居るって、あたしは呑気に考えてイチの背中を追ってきた。それなのに。
すぐに柴犬のところへ駆け寄って行ったイチは、雪で毛が覆われてしまっている柴犬にそっと手を伸ばしている。
怖くないのかな。噛みついてきたりしないかな。
あたしはイチの心配をする。
「お前、なんでここにずっと居るんだよ! こんな冷たくなって。死んじゃうぞ!」
素手で犬の体の雪を払ってあげて、イチはぎゅっと柴犬を抱きしめた。
柴犬はそれでも、真っ直ぐに一点を見つめたままだ。
「イチ、学校。遅刻しちゃう」
しばらく動きそうになくなってしまったイチに、あたしは声をかける。
「うん……行ってくるな」
イチがそう言って柴犬から離れると、一瞬だけ耳がぴくりと動いた気がした。
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