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 学校へ着いても、イチは柴犬のことが気になっているのか、授業も上の空だ。あの柴犬は、あたし達が暖房の整った教室で暖かく過ごしている間も、寒空の下でずっとあの場所に座ったままなのかな。  気になるけど、あたしにはどうしたらいいのか分からない。 「あの犬さ、ハチって言うらしい。あの辺に住んでる一人暮らしのおじいさんの飼い犬なんだって」  放課後、イチが帰る支度をしているあたしの所へ来て話し出した。 「昨日、どうしてもあいつのことが気になってさ、家に帰ってからランドセル置いてまた見に行ったんだ。そしたら、すぐそばの花屋のおばちゃんが教えてくれた」 「そうなんだ。飼い主がいるなら、良かったじゃん。どうして帰らないんだろう? ケンカでもしたのかな?」  安心して、あたしはあははと笑いながら聞いた。だけど、イチの表情は笑ってなんかいなくて険しい。 「……おじいさん、ハチに待ってろよって言ったまま、その日交通事故に合って、亡くなったんだって」 「……え」  イチの目が潤んでいる。 「待ってたって帰って来ないのに、ハチはずっとあそこで待ってるんだよ。おじいさんが帰ってくるのを」 「……そんな」  真っ直ぐに一点を見つめる柴犬のことを思い出して、あたしは胸がギュッと苦しくなった。  柴犬、ううん、ハチは、もしかしたら、おじいさんが交通事故に合ったのを、見てしまったのかもしれない。
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