3

2/2
前へ
/9ページ
次へ
「ハチ、どうしたらあそこから動いてくれるかな。今夜も寒くなるって言うし」  ため息を吐いて、イチは鼻を啜った。  あたしには、どうしたらいいのか分からない。  小児喘息を患っていたから、あたしは犬どころか猫も飼ったことがない。その辺を散歩している犬を見るのはかわいいなと思う。遠目からならそう思えた。  だけど、実際に触れたりは出来ないと思う。  吠えられたり、噛まれたりするんじゃないかって、あたしは今朝、凍えるハチのことよりも、イチの心配をしていた。  イチは、目を真っ赤にするほどハチのことが心配なんだ。 「うちの犬、帰るぞって言えばすぐについてくるよ?」  いつの間に来たのか、隣のクラスからヒフミくんがやって来ていて、会話に加わる。 「そんな簡単かよ」 「うーん……わんチュールでもちらつかせながら、帰るぞって言えばいいじゃん?」 「……ヒフミじゃねぇんだから」 「うちのポメたんなら、一発なんだけどなぁ」  下唇を突き出して難しい顔をするヒフミくんに、イチは大きなため息を吐き出した。 「とにかく、ダメ元で言ってみるか」  みんなで教室を出て交差点へと向かう。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加