14人が本棚に入れています
本棚に追加
「ハチ、どうしたらあそこから動いてくれるかな。今夜も寒くなるって言うし」
ため息を吐いて、イチは鼻を啜った。
あたしには、どうしたらいいのか分からない。
小児喘息を患っていたから、あたしは犬どころか猫も飼ったことがない。その辺を散歩している犬を見るのはかわいいなと思う。遠目からならそう思えた。
だけど、実際に触れたりは出来ないと思う。
吠えられたり、噛まれたりするんじゃないかって、あたしは今朝、凍えるハチのことよりも、イチの心配をしていた。
イチは、目を真っ赤にするほどハチのことが心配なんだ。
「うちの犬、帰るぞって言えばすぐについてくるよ?」
いつの間に来たのか、隣のクラスからヒフミくんがやって来ていて、会話に加わる。
「そんな簡単かよ」
「うーん……わんチュールでもちらつかせながら、帰るぞって言えばいいじゃん?」
「……ヒフミじゃねぇんだから」
「うちのポメたんなら、一発なんだけどなぁ」
下唇を突き出して難しい顔をするヒフミくんに、イチは大きなため息を吐き出した。
「とにかく、ダメ元で言ってみるか」
みんなで教室を出て交差点へと向かう。
最初のコメントを投稿しよう!