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「ハチ、帰ろう」
ハチの目の前にイチが立つ。
ピクリと、ハチの耳が動いた。一点を見つめていた視線が、空を見上げた。そして、イチへと向き直った。
おすわりの状態でずっと座り続けていたハチが、お尻をあげてゆっくりと立ち上がる。
イチを見上げて「ウォンッ」と初めて鳴き声を発した。
「……え、ハチ、俺と一緒に帰ってくれるのか?」
まさか、うまくいくとは思っていなかったんだろう。イチは眉を顰めた。
もう一度「ウォンッ」とハチが吠える。
イチは驚きながらも、そっとハチへと手を伸ばして頭を撫でた。背中も撫でて、あたしの方を見た。その顔は、涙でぐじゃぐじゃだ。
「なんだよ、イッチ泣きすぎだろーっ」
ケラケラと笑うのはヒフミくん。感動が台無しだけど、イチも涙を流したことが恥ずかしいのか、袖で拭いながら「泣いてねぇ」と強がっている。
イチ、すごく心配していたから、ハチがイチに応えてくれて、良かった。
もしかしたら、空を見上げたあの時、ハチにはおじいさんの姿が見えたのかもしれない。
待たせてごめんって、言っていたのかな。
もう、ひとりぼっちじゃないね。ハチ。
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