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「あの犬、ずっとあそこにいるよな」  学校からの帰り道、交差点で見かけたのはあんまり若くはなさそうな柴犬。 「おい、赤だぞ」  犬に気を取られて進んでしまっていたあたしの腕を、幼なじみのイチが引っ張って引き留めた。歩行者信号は赤。ランドセルに付けている反射板の役割も兼ねた犬の鈴付きキーホルダーがちりんとなった。  反対側の歩道。たしかに昨日の帰り道も、今朝もいたような気がする。 「あそこが家なんじゃん?」  帰る方向が一緒の小柄なヒフミくんが真面目な顔で声をかけてきた。 「は? んなわけねーだろ」 「じゃあ、なんで?」 「さぁ」  信号が青に変わって、あたし達は歩き出す。真っ直ぐに一点を見つめたまま、柴犬は微動だにしない。まるで、置物みたいにそこにいる。 「にしても、さみぃな今日」 「天気予報で夜に雪マーク付いてたぞ。ついに降るかもよーっ、雪」  はしゃぐヒフミくんを横目に、見上げた空は濃い灰色をしている。吐き出す息はまだ白くはないけれど、冷たい風がトレーナーを通り抜けていく。あたしもブルッと身震いした。  振り返ってもう一度柴犬を見ると、冷たい風に俯くこともなく、いつまでも真っ直ぐに前を向いたままだった。
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