盲目と覚醒

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「今度の放送でさ、順位発表があるんだけどさ」  ここ数週間の熱量からすれば、どうにも冷めているように思えるアイナからのメッセージ。私はパフォーマンス動画を見ながら、片手間に返信を打つ。 「うん。順位発表、楽しみだね」  アイナと言えば、高速返信、というくらいに、いつもならばすぐに返ってくるメッセージが、なかなか来ない。元気がない? それとも、なにか失言でもした? 「楽しみな人なんていないよ。みんなドキドキ。半分はここで脱落だし」 「え、脱落?」 「そうだよ。だってこれ、みんなでパフォーマンススキルを磨きましょうって会じゃなくてさ、オーディションなんだもん」  ハッとした。確かに、そうだ。オーディションなのだから、いつか、終わりがある。選ばれる人と選ばれなかった人に明確に線が引かれるのだ。 「推し、けっこうギリギリなんだよね」 「え、順位、リアルタイムで発表されてるの?」 「リアルタイムってわけじゃない。週によって発表されたりされなかったりするんだけど。前回のやつがけっこう危険水域だったっていうか。いや、前々から低空飛行っていうか」 「そうだったんだ」 「だから、一票でも多くって思って、いろんな人に『推して』ってお願いしてるんだけど」 「私だけじゃなかったんだ」 「うん。でもね、投票するって言ってくれたり、番組を見てくれたのは、ルイだけ。やっぱり、親友になるような人って違うなって思った。ルイと親友になれてよかったとも思った」  今、アイナはどんな顔で、このメッセージを打ったのだろう。想像してみる。ちょっと口げんかしちゃった後、「ごめんね」って言い合った後の顔が、ぼわん、と浮かんで見えた。 「アイナが信じてあげないで、どうするの。推しなんでしょ? ちゃんと推しきらないと! じゃないと、本当に脱落しちゃうかもしれないぞ!」 「やだ! 脱落なんて言わないでよ!」 「じゃあ、信じて! 疑っちゃったら、推しに失礼だよ!」  親友を想って、メッセージを打ち込んでいる。そのことに、嘘偽りはない。けれど、これは、親友を想う気持ちだけだろうか。親友を想う先に、親友の推しをも想ってはいないだろうか。ううん、だろうか、なんて疑う必要はない。私は、確かに想っている。    ――推しのオーディションに、続きがありますように。
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