盲目と覚醒

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「ルイ。こんど映画観に行かない? 俺、観たいやつあってさ」  最近のメッセージは、その九割がアイナだった。だから、久しぶりにコウキからの文字を見て、私は困惑した。  彼氏とのメッセージって、どんなテンションでやっていたっけ?  最近の、密度の高いやり取りの日々が、そう遠くはない昔の出来事をマスキングする。  とりあえず、過去のやり取りを遡って見てみた。彼氏、とは言っても、なんだか冷めている。互いに用がある時しか連絡をしないし、互いに一緒に出掛けたいどこかが思いつかない限り、どこへ行くでもない。「本当に付き合ってんの?」と、ふざけ半分で訊かれることが稀にあるけれど、私自身、本当に付き合っているのか、はっきり分かっていない。もしかしたら、互いに〝付き合っている誰かがいる〟という事実を作り出すために、そういう関係を続けているだけなんじゃないかと思うくらいだ。 「なにを観たいの?」  過去のメッセージが淡白なものだったから、それに合わせて打ち込んだ。アイナとのやり取りと比べると、さっぱりしすぎていて、どこか気持ち悪さを覚えた。 「アニメーション映画」 「どんな」 「たぶん、ルイがすきなやつ」  情報量が少なすぎる。  そんなの、制服の写真だけで投票する人を決めるようなものだ。その先の、歌はどうかとか、ダンスはどうかとか、そういう情報もないと、よくわかんないってば。どんなタイトルで、監督は誰で、原作が誰で、とか。○○っていうアニメを作った会社が作っててとか。……っていっても、アニメには疎いから、言われれば全部わかるっていうわけでもないけどさ。それでも、有名どころとかだったらなんとなくは分かるし、じゃあ行く、とか、行きたくない、とか答えやすいのに。 「うーん」 「なんかさ、今は来場者特典っていうんだっけ? 冊子配ってるらしくてさ。それが欲しいんだよね」 「そうなんだ」  なんだ。映画が観たいわけじゃないのか。 「だから今週末までには行きたいなって思ってて」 「そう」 「あんまり行きたそうじゃないね。じゃあ、やっぱり観たい、ってなったら、連絡ちょうだい」 「わかった」  結局、どんなアニメ映画なんだろう。
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