盲目と覚醒

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 私は、彼との恋に、盲目になれなかった。ただ、ふわふわと付き合って、そのまま目覚めてしまった。  ――この人、無理かも。  そう思い始めたら、笑顔の作り方すらわからなくなった。 「このあと、どこかいく?」 「ううん。家帰って寝たい」 「ははは。ほんと、ルイはインドアだなぁ」 「ごめんごめん」 「いいや、謝ることじゃないよ。じゃあね」 「うん」  近くまで送ると言われたけれど、そんなことされたくなかった。一刻も早く別れたいと思ってしまった。  ひとりとぼとぼと歩きながら、まだ別れ話をしていないのだから彼氏なのだろうが、もしも矢が飛んできても手で払えそうなほどに冷めてしまった〝たぶん彼〟が発した言葉を、噛んで飲んで吐いて、噛んで飲もうとして吐き出した。 『ああ、その子? けっこうポンコツって有名らしいよ。友だちに見せてもらったことがあるけど、なんか、いかにもデビューできない人って感じがしたな。オーディションっていってもさ、番組なわけじゃん? なんだっけ、こういうの。ああ、リアリティショーだったっけ? だからさ、ああいう子も加えておいた方が、視聴率? とか、いいんだろうね。アンダードッグ効果を狙ってる感、っていうか。それに、ほら。有能な人ばっかりだと、有能な人同士でつぶし合いかねないというか。負け犬をちゃんと配置しておけばさ、有能な人が映えるっていうか。ああ、いや、でも、負け犬にだってチャンスはあるよ。もちろんね。そこでガツン、と魅せてさ、誰かの心に矢を射せばいいんだもん。ああ、ルイの友だちは、きっとその矢を受け取った人なんだね。運命だ。……その推しの子、頑張り屋ではあるし。今後に期待だね。でも、たぶん、今回は無理だよ。壁が厚いし。ほんとにさ、この後にさ、彼女にとっての理想の未来があったらいいよね。まだまだこれからっていうか、今じゃないって、いうか、その……』  私が何も言わないことを良いことに、ブツブツブツブツ言いやがった。  私が彼にビビッと来ていて、彼との関係がアツアツだったら。「そんなこと言わないで~」とか、そんなことを甘ったるく言ったのだろうか。  彼のことを考えると、思考が闇に落ちる気がした。  私は動画サイトに上がっているパフォーマンス動画を観漁って、アイナとのメッセージのやり取りに熱中した。  毎日、彼には連絡しないくせに、投票サイトにはアクセスして、熱い一票を投げる。  彼女は、負け犬なんかじゃない。  そう思わないと、それが証明されないと、自分までもが否定されるような気がした。  今、彼女は私の偶像で、分身のようなものだから。  彼女が見ている方を、私も見ているから。たくさんの障害があっても、その先にあるわずかな煌めきを、私たちは見ているから。
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