ひさしぶり、ひさしぶり。

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 ***  同窓会のお知らせは何度か着ていたものの、僕は六年三組のそれは悉くスルーしてきたのだった。  最大の理由は、やっぱり怖かったからだ。岡部沙代里と、顔を合わせる勇気がなかった。そりゃあ、大学生になった今の僕は、あの頃と比べたらはるかにパッとしているだろう。彼女を含め、他の者達から見てもそこまで冴えない人間には見えないはず。むしろ、あの地味なのび太くんが!?と驚いて貰えるかもしれない。  それでもだ。やっぱりあの頃の気持ちが残っている以上、緊張はするのである。ただでさえ見た目を整えて話術を磨いても、アガリ症なところが治らなかったから尚更に。 ――だ、大丈夫かな。うまくいくかな。  指定された居酒屋は、大きな駅前にある特に大きな店だった。方向音痴なので、わかりやすい店で本当に良かったと思う。“アシタザカ”と書かれた看板の前、他のみんなは来ているかなと思ってうろうろしていると。 「えっと、ひょっとして同窓会に参加する人っすか?六年三組の」 「え」  声をかけられて、僕は振り返った。見ればすらっとした長身に黒髪のイケメンが立っている。六年三組、というキーワードが出て来たということは彼も元クラスメートのはず――そう思って彼を見た僕は、気が付いた。  ちょっと垂れ目気味で、日本人にしては茶色っぽい瞳。それと、少し軽めの喋り方。もしや。 「……え、榎本(えのもと)、くん?」 「!そ、そうっす。俺榎本!」  当たりだったらしい。彼、榎本翔(えのもとしょう)は瞳を輝かせて僕の顔を覗き込んできた。ダレダレ?と尋ねたいらしい。どうやらここまで間近で顔を覗き込まれてなお、僕が誰なのかわかっていない様子だ。 「僕、鳳千春(おおとりちはる)です。覚えて、る?」 「マジで?ちー?お前ちーなの!?まっじでー!?超イケメンになってんじゃん。全然わかんなかったわ!」 「僕もわかんなかった。モデルでもやってる人かと思ったよ」 「あんがと!」
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