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2.夢の中
「深雪!」
近くで呼ぶ声がした。
瞼を開くと、そこは森の中。
木々にはたくさんのイルミネーション、それにオーナメント。
綿のような雪を載せた山小屋が、白い絨毯の上にあちこちに置かれているよう。
その中のいくつかの煙突からは、白い煙がゆらゆらと上がっている。
「ごめん、待った?」
1件のカフェレストランの前で、駿介が、申し訳なさげに聞く。
「ううん。私も今来たばかりだよ」
「そう、よかった。じゃ、入ろ」
席は駿介が予約してくれてあった。
「去年はごめんね」
座るなり、深雪は謝った。
「ホントだよ。ドタキャンなんてありえないよ」
駿介が、ちょっと意地悪な笑顔を向けてから、
「だから、今夜は去年の分まで!」
と、提供されたグラスワインを持つ。深雪もグラスを手に取ると、
「メリー、クリスマース」
2人は声をそろえ、カチンとグラスを合わせた。
それが合図のように、
♪ もろびとこぞりて~
2人だけのカフェに、オルゴールの音色が流れ始めた。
1曲終わると、また次の曲へ…。
オルゴールが奏でるクリスマスソングに、カフェは包まれていった。
「メリー、クリスマース!!」
『ジングルベル』のメロディーが終わると同時に、店の大きな暖炉から、突然サンタクロースが登場した。
ビックリする2人に、
「ご結婚、おめでとう!!」
『シュポーン!』
サンタのおじさんが、シャンパンの栓を抜き、しなやかに2人のグラスに注いでくれる。そして、
「はい、プレゼント!」
深雪と駿介に、キラキラの小箱をくれた。
「えーっ、なになに?」
深雪の大きな目が、さらに大きくなる。
「なんだろう」
瞳が輝く駿介の笑顔が、少年のようだ。
駿介が小箱を軽く振ると、カタカタと硬い音がした。
目を合わせた2人が、サンタのおじさんを見ると、目を細めて、ひとつ大きく頷く。
ドキドキの中、深雪が箱を開ける。出てきたのは、ダイヤの指輪だった。
「わぁー…」
思わずため息がもれる。その向かいで、
「えーっ、まじっすか?」
裏返りそうな駿介の声がした。
「ご結婚、おめでとう!!お幸せにな!!」
サンタのおじさんは、そう言い残すと、暖炉へと消えていった。
と、いきなり盛大な拍手の波。
いつの間にか2人は、大勢の友人、家族たちに囲まれていた。
気がつけば、そのまま景色は教会の中。
深雪は、父とバージンロードを歩き、牧師の前の駿介の隣へ。
牧師が読み上げる結婚の誓いに、「はい」と答える。
そして、教会の外へ。
そこは、湖のほとり、木立に囲まれた森の中。
クリスマスイルミネーションの光を受けた雪が、宝石のように舞い降りる。
ぼんやりと浮かび上がる教会。
『カーン、カーン』
鐘の音が、森の中に響き渡る。
「素敵だな……」
「……うん」
「深雪、君が好きだ」
「……私も」
見つめ合う2人は、自然と近づき、そっと唇を重ねた。
(しあわせ……)
極上の至福感の中で、深雪の意識が薄れていく……。
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