6.森のカフェレストラン

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6.森のカフェレストラン

『森のカフェレストラン』  教会の隣に、そう掲げられている店。 中に入ると、広がっていたのは、やはり夢で見たのと同じ空間だった。  迎えた案内係に、朱美が「予約しておいた今宮です」と告げる。 「お待ちしておりました。4名様でご予約の、今宮様ですね?こちらへどうぞ」  案内係の誘導についていきながら、深雪は首をかしげる。 (4名様?)  しかし、その疑問はすぐに解かれた。 「こちらのお席でございます」  案内された窓際のテーブル席。そこで見たものに、深雪は思わず息を呑んだ。  4つある椅子のひとつに、額縁に納められた1人の青年の写真が置かれていたのだ。 「駿介くん……」  あの爽やかな笑顔に、無意識に呼びかけていた。 「さぁ、座ってください、深雪さん」  朱美が微笑んで椅子を引き、座るように勧める。 「あ、はい。ありがとうございます」  硬い声で返し、着席すると、斜向かいの椅子にも、一人の男性の写真が置かれているのが目に入った。 「今宮良一。彼です」  深雪の視線に気づいた朱美が言った。  夫でも旦那でもなく、『彼』と言ったところに、朱美の気持ちを感じた。 「なぜ、駿介くんが……」 深雪が、隣の駿介の写真に視線を戻す。 「ここで式を挙げられたのは、駿介さんのおかげだから……」 「いえ、そうじゃなくて……」 「……あぁ、なんで駿介さんの写真を用意できたか、ってことね?」 黙って頷く深雪に、朱美は頭を下げ、 「ごめんなさい。駿介さんのスマホから借りました」 朱美自身が退院後、命の恩人が亡くなったと聞き、線香をあげに駿介の実家を訪ねた。 その時、どうしても証跡を残しておきたくなった朱美は、両親に頼んで、駿介のスマホに残っている彼の写真を自分のスマホに送ってもらった。 それは、高校時代、あの樅の木をバックに撮った、深雪とのツーショットの自撮り写真だった。 それを加工し、駿介だけを拡大して額縁に納めてあった。 「勝手なことをして、本当にごめんなさい」 一度上げた頭を、もう一度下げる朱美。 (いくら命の恩人だからって、私の知らないところで……) 聞いた瞬間、そういう気持ちが生まれた。 けれど、目の前の朱美の姿に、駿介への心からの感謝と弔いの思いを感じたのも、また事実。 それは次第に、僅かであるけど感謝に似た感情をも産み出し、 「頭を上げてください、朱美さん」 と言ってから、続いて、 「一番いい写真を選んでくれて、ありがとうございます」 自然にそんな言葉が出た。 元々、隣の深雪を抱き寄せている写真だった。だから、こうして隣に置かれていると、改めて駿介に抱かれているような気持ちが生まれてくる。 思わす、額縁に手を添え、 「駿介くん」 こみ上げる愛しさを声に載せ、彼の笑顔にかけた。
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