6.森のカフェレストラン

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「私もね、一番好きな写真なの」 朱美も、穏やかな笑みで隣の良一の写真を見つめた。 「結婚式の時の、ですか?」 朱美は「うん」と頷いて、 「こういう日が来るなんて、思ってなかったから」 「すごい苦労しましたもんね」 「うーん、まぁそれは、周りにすごい迷惑かけたバチが当たったんだよね」 乾いた笑いを浮かべる。それには深雪も、苦笑するしかなかった。 「お待たせいたしました。こちらが、本日メインの……」 ウェイターが、運んできたコース料理のメインディッシュをテーブルにセットする。 良一の前には魚、駿介の前には肉が置かれた。 「えっ……そこまで……?」 「もちろんです。今日は4人でのお食事だから」 優しい笑顔の朱美に、深雪は小さく首を振って、 「駿介くんの好みまで調べてくれて……」 駿介は、魚が苦手。その代わり、大の肉好きだった。 「そのくらいは……恩人だから」 朱美はそう言ってから、 「さ、いただきましょう!」 一段高くて大きな声で両手を合わせ、良一と同じ、魚料理にフォークを入れた。 その様子を見ながら、深雪が 「あの、乾杯は……?」 「あっ、いけない。順番が逆ね!」 口に持っていきかけた魚を置き、自分と良一のワイングラスを手に持った。 深雪も、駿介のと二人分のグラスを持つ。 「じゃあ、改めて」 朱美の声に続き、 「かんぱーい!!」 『カチン、カチン』 二人の声と、グラスの音。 中で揺れる紫色のワイン。 「良一さん、元気にやってますか?これからだったのにねー。あなたに会いたいよ……」 向かいの席で、朱美が良一の写真に語りかけている。 深雪も、駿介の前にそっとグラスを戻し、彼の爽やかな笑顔を見つめ、 「駿介くん、あなたに会いたい……」 そう囁きかけた。 (完)
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