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1.現(うつつ)~いま・その1~
イブ。
しんしんと雪が降り積もる、夕刻の故郷の街。
普段は灯りも少ない山沿いの小さな街も、12月だけはきらびやかだ。
公園の樅の木の下で、深雪はただ1人、駿介の来るのを待っていた。いや、正確には、もう来るはずのない彼……。
今年の冬はずっと暖かくて、今朝も東京はポカポカだった。それで油断してしまった。
手袋越しに、白い息を吹きかける。
風も出てきた。
(寒い……)
歯がカチカチと音を立てる。
小さく足踏みする。
道行く人が、凍えそうな深雪にチラッと視線を送っただけで、足早に通り過ぎてゆく。
(あと30分…)
約束の時間はとうに過ぎた。
(1年前、駿介くんはこうしてずっと待っててくれたんだね……)
しばらくは堪えていた。
しかし、限界を超えた深雪の視界の中で、イルミネーションの灯りが眩しく滲み、気が遠退いていった。
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