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「ずいぶん泣き虫になって……」
「歳を取ると涙腺が老化するんだよ。ずっと変らないお母さんと違ってね」
とっくに母の年齢を超えてしまった私。再会が楽しみでもあり「どなた?」って言われる不安もあった。
「もう少し、歳を取ってからの方が良かったんじゃない?100歳まで生きるーって言ってたでしょ?」
確かに母の分まで生きるつもりだった。せっかちだから──100歳には届かなかったんだよ。
可能な限り努力したから、これで勘弁して欲しい。
「お母さん、ここで一人でいたの?」
「まさか!すぐにわかるよ?」
庭の方から大きな声が聞こえてきた。
「アキちゃん、柿を取りに行くぞー」
「おじいちゃん!!」
祖父の隣で祖母が「屋根がないから上れませんよ?」とたしなめている。
はしごをかけて屋根に上り、お日様をたっぷり浴びた柿を見つけてもぐのが、おじいちゃんと私の秘密のお約束。
心配性のおばあちゃんはいつもハラハラしていた。
「それよりも、アキちゃんに素麺を食べさせてあげなくちゃ」
祖母がいそいそと割烹着を着る。周りは夏の風景になり、蚊取り線香の匂いがかすかに漂う。
「おばあちゃんの素麺……ずっと食べたかった……」
一人、また一人と増えていく懐かしい面々は、私をどんどん子供の頃に還す。
母は屋根のない家のリビングから、笑いながら見ている。
母に甘え、祖父や祖母に甘え、いつの間にか私は小学生の私になっていた。
どこからか強い風が吹いて、お気に入りだった赤いチェックのスカートを揺らした。
子供の頃、散々遊んだあとの夕暮れは、少しの寂しさと、物足りなさと、夜に向かう怖さが入り混じり嫌いだった。
今もそう……。
この懐かしい楽しさは、ずっと続く訳じゃないってわかっている。
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