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それから数ヶ月の間、僕らは、他愛のない言葉を交わして、小さな事で笑い合い、代える事のできない時間を共用してきた。
蛍が見えなくなっても、その逢瀬は続いていた。
「ねぇ!冬になったらさ、今度は蛍じゃなくて、空に舞う雪を、一緒に見ようよ!」
何の気なしに放った願望だった。その言葉にミオは、罰が悪そうに伏し目がちに湖面を見つめた。
「ミオ?」
「ごめんねユージ。私、言ってなかった事があるの」
「え? 」
その一言だけで、大きな不安が膨らんで、今にも破裂しそうなほどの心臓を圧迫する。
「私ね。もうそろそろ消えちゃうの。あの蛍ちゃん達のように、小さな光になって消えちゃうの」
「ミオ? 何を言って…………」
分かっていた。短い間柄とは云えど、ミオがそんな冗談を言うはずはない。
「ごめんね。これはもう、初めから決まっていた事なの。今ではもう、この地に足を踏み入れる人間は、ユージ、あなただけ。ここが忘れられてしまえば、私はもう消える」
「僕は!僕は覚えているよ!この先もずっと!忘れないよ!だから!」
「ううん。もう遅いの。それに、ユージには、ここに縛られて欲しくない。だから、あと僅か。あと僅かの時間だけでもいい。忘れないでいて欲しい。その後は、ユージの人生を生きて!」
「ミオ………」
僕がミオに返す言葉なんて残っていなかった。人の手の力ではどうにもできない運命を、酷く呪うことしか僕には出来なかった。
ーーー それから、懲りなく僕は毎日のようにミオに会いに行った。日に日に弱っていく姿に、隠れた泣いてみたりしながら、ミオの最期の時まで一緒に居ようと決めていた。
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