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ーーー その日は特に冷え込んでいて、厚着に厚着を重ねて、いつものように僕はミオに会いに来ていた。
「ミオ!!」
そして、直ぐに異変に気づいた。ミオは弱々しく地に倒れこみ、その体はいつか見た蛍のように、眩い光を纏っていた。
僕は急いでミオを抱き抱える。すると、それとほぼ同時に空から白い粒が降り注ぎ始めた。
「あぁ………。初……雪だね……。良かった。一緒に………見れたね」
いつか何の気なしに放った願望が、現実となった瞬間だったというのに、その初雪は、僕の心に重く降り積もる。
「ミオ!しっかり!ほら!雪が積もったら!一緒に雪だるまを作ろうよ!それからかまくらも!そして………」
「ユージ」
ふと、伸ばされた小さく冷たい柔らかな手が、僕の頬を撫でる。
「私ね。ユージと出会って。一緒に話して、隣に居て、すごく楽しかった。心がふわふわとして、ドキドキとして、温かくて、幸せだった。ねぇ? こういう気持ちって、人間の言葉では何て言うの?」
今にも消え入りそうなか細い声が、僕の鼓膜を揺らすたび、視界がぼやけてしまいそうだった。
それでも、最期の最期まで見届けると誓ったから、瞳から零れそうなソレを、拭ってミオの手を握りしめる。
「それは人間の言葉で………ううん。ミオ。僕も同じ気持ちだよ。僕もミオが好きだ」
僕はミオとの距離をゼロにする。触れる唇から感じる微かな温もりは、体温ではなく、きっと僕とミオの心の温度だろう。
「うん。私も。私もね………ユージの事が………す……き……だよ……」
最期のその言葉は、どんな言葉よりも僕に、形のない幸せを教えてくれた。
それと同時にミオの放つ光は、視界で捉えられないほど眩くなり、その刹那、いつか見た蛍のように、無数の光となって、空へと昇って行った。
それと対になるかのように、降り注ぐ初雪が、僕だけを包む頃、ようやく僕は溜まった感情を溢した。
ミオに見られないように。最期まで、ミオを姿を見送ったその後で。
ーーーー それから数年が経って。すっかりと大人になった僕は、仕事帰りの公園で、温かい缶コーヒーを片手に空を見上げていた。
空からは、例年より遅めの初雪が降り始めている。
そして毎年、初雪が降る度に思い出す、最期の光を、僕だけのイルミネーションとして、今見ている景色に落としこむ。
そこに君は居なくとも、君の居る場所は今もまだずっとここに…………。
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