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 メモリーペットサービス。  私がそのサービスを知ったのは、飼っていたチワワのちくわが亡くなって2週間ほど経ったころだった。  その日、私はお骨になったちくわの傍らで、抜け殻になって縁側でスマホを眺めていた。  スマホを眺めていた理由は、ペット霊園を探すため。  ここは借家だから庭に埋めてあげることはできない。実家は一戸建てではあるが埋めてあげられるような庭はついていない。  だったらせめて実家の近くの霊園を探そう。そうすればいつだって会いにいける。そう思って、腫れた目をこすりながら検索をしていた。  そのときだった。 「亡くなったペットちゃんと会える」。  そんな文字が見えた。  会える? ちくわに?  怪しいな、と思いながらも広告に目が吸い寄せられた。 『ペットは家族です。突然失った心の傷は大切な人を亡くしたのと同じこと。  きっと予期しない別れもあったでしょう。  当社のメモリーペットサービスは、そんな飼い主様の心の整理をお手伝いするサービスです』   そんなコピーがつけられたそのサービスは、実に画期的なものだった。  飼い主の脳内に残るペットの記憶を抜き出してデータ処理し、VR空間にて一定回数再生できる、というのだ。  記憶だから過去のワンシーンを切り取った写真や動画と違い、こちらからの干渉も可能になる。  過去の映像を覗くのではなく、自分が過去に戻る、というのがしっくりくるかもしれない。 『ただし記憶再生が可能なのは1回につき10分。回数は4回までとさせていただいております。ご了承ください』。  料金を見ると、20万円だった。まあまあの額だ。  だが、私は迷わず申し込みボタンをクリックしていた。  ちくわに会える。  その思いが料金の高額さを完全に見えなくさせていた。
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