2.1回目

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2.1回目

 数日後、一つの段ボール箱が届いた。  中に入っていたのはヘッドフォン内蔵のVRゴーグルと電極がついたヘルメット、DVD再生プレイヤーを思わせる平べったい黒い機械。そして取り扱い説明書だった。  このヘルメットと黒い機械を繋ぎ、ヘルメットをかぶって簡単なボタン操作を行うだけで記憶が抜き出されるらしい。  あまりにも簡単過ぎる手順にどきどきしながら、説明書に従って操作を行う。  ものの10分ほどで記憶の抜き出しは完了した。  あとはVRゴーグルを装着して、再生するだけ。  本当にちくわに会えるのだろうか。  半信半疑ながら起動スイッチを押した。  見えたのは、縁側がある自宅。ゴーグルを通して現実そのままの部屋が見える。  ちゃんと再生できているのかな、と思ったときだった。 「わん!」  声が聞こえた。  はっとして視線を彷徨わせると、私の足元にちくわがいた。白い毛の中に茶色い模様が入った、まさにちくわ柄のちくわがいた。 「ちくわ!!」  思わず手を伸ばす。けれどちくわの体に触れるはずの私の手は空を切る。  そこで気づく。ああ。これは記憶のちくわなのだと。  ちくわは私の落胆なんてまったくお構いなしに私の周りを走り回る。生きていたころ、そのままに。  ふわふわの白い尻尾が私の周りをぐるぐる回る。  まるでチアリーダーのぽんぽんみたいに。  元気出して、元気出して。そう言うみたいに。 「ちくわ……」  ふううっと急に視界が曇る。え!と慌ててからすぐに理由がわかった。自分が泣いていたからだった。  でもゴーグルを外して涙を拭いたらちくわが見えなくなってしまう。私は必死に瞬きし、涙を追い払った。  その間、ちくわはいつもみたいに私にまとわりついて走り回り続けた。ときどき足元に寄ってきて、私のつま先の匂いを嗅いでは嬉しそうに私を見上げた。  けれど空間を切り裂くように鳴り響いた無機質なアラームの音で、ちくわと私の時間は終わる。  さっきまで走り回っていたちくわの姿が不意に消えうせ、後には見慣れた薄暗い自分の部屋が見えるばかりとなった。
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