結婚大好き

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 おれは夫なので、妻が入浴中に彼女のスマホを見てみた。  そして驚愕した。  どうも怪しいと思っていたら、妻はホストにハマって貢いでいたのだ。  そしてSNSを開いてみたら、こんな怪しいアカウントにDMを送っていた。 「ホストへの売掛金、私が肩代わりします! お金が余っていて、世の中のためになることがしたい当アカウントを見つけた、ラッキーなあなたへ!」  詐欺だ。  どう考えても完全に詐欺に違いない。  こんなのに騙される人間は、同じ年数生きてるセミと同等の知能しかないだろう。  妻が送ったDMを見てみる。 「私、ホストへのカケがかれこれ二千万ほどあるんです! 本当に肩代わりしてくれるんですか!?」 「もちろんです! まず手数料として三万ほど振り込んでいただけますか?」 「はい、明日振り込みます」 「(翌日の日付だ)確認しました。ありがとうございます。では信頼できる業者とともにご協力いたしますね。 ただ私どももタダでお手伝いするわけにはいかないので、社会人の常識として少々の手数料がかかりますが、二千万に比べればはした金ですよね!」 「ええ、もちろん常識です! 分かります、そういうことが! ありがとうございます!」  妻はセミだった。  そして、生年月日や銀行口座等、幾多の個人情報を相手に教えてしまっていた。  え、いや、ていうか二千万? マジで?  これは黙っているわけにはいかない。  おれはDMを書いた。 「おい! おれはこのアカウントの中の人の夫だ。お前詐欺師だな!? 通報してやるぞ!」  そこで妻が風呂から出てきたので、慌てて妻のスマホを元通り机に伏せる。  そして、例の詐欺アカウントに、おれのスマホから自分のアカウントでDMを送った。 「おれはさっきDMを送った者だ。この件、ただじゃ済まさないからな!」  すると、数分後に返信メッセージが来た。  ネットで動画を見ているのに夢中な妻に隠れて、文面を見てみる。 「これはご主人様! なにか誤解があるようですね! しかしその奥様への愛情と知性ある文面、さぞご立派なお仕事に就かれているかと拝察いたします!」  ほう。こいつ、詐欺師だけあってなかなか人を見る目があるな。  おれは再びDMを返す。 「確かにそうだ。今はおれはセカンドキャリアの準備期間で充電中だが、次に仕事に就いた時には誰からも注目される大人物になることだろう。お前のような怪人のたくらみなど、通じはしないのだ。おれ自身はもちろん、妻にもな!」  また数分後、DMで返信が来た。 「さすが、私の目に狂いはございませんでした! おみそれしました! ただ、誓って私どもは詐欺などしておりません!」 「嘘をつけ!」 「本当でございます! なんでしたら、私どものOオフィスにお越しになりますか?」  ふふん。  いいだろう。堂々とこいつのところに乗り込んで、正面から論破してやるのも気持ちがよさそうだ。  翌日、おれは指定された雑居ビルの四階に足を運んだ。  なかなかこぎれいにしていて、会社名もフランス語らしい横文字で洒落ている。  ドアを開けると、中には中肉中背の男が一人いた。  こいつか、あのアカウントの中のやつは。 「おう、来たぞ!」 「これはようこそおいでくださいました!」 「詐欺師め、逃げ隠れせんとはいい度胸だ!」 「詐欺師ではございませんと言いますのに! ――ところで、お仕事探しはよいのですか? お邪魔してしまいましたでしょうか?」 「構わん! おれは無料の職業訓練を受けて、受けたからには就職しろなんぞと言われたが、そんなものは踏み倒しても捕まるわけじゃないからな!」 「それは無料と言いましても、税金で負担されているのでは?」 「おれは困らん! 労働局は困るらしいが、おれは困らんのだ! これが現代の仕事術だ!」 「なるほど! お仕事ではない気がしますが! それでハローワークへお通いに?」 「まあな! この間は若い女の子が受付だったから、ちょっとプレゼントなど渡しちまったわ! こういうところが社会経験よな!」 「なるほど! ですが新聞の朝刊についてきたマクドナルドのクーポン券では、もらったほうも困ってしまいますよね!」  高笑いしていたおれは、そこでぴたりと動きを止めた。 「……なぜそれを?」 「ふところをいためてまでプレゼントなんてしたくないのが見え見えで、感謝どころか嫌がらせに近いと思われます! 突っ返されたのに無理やり置いて帰ってきたのもほぼ迷惑行為ですしね!」 「はっ(笑い)! 目上の者からものをもらったら感謝するのが当然だ! 何が嫌がらせだ!?」 「余計に歳を取ってるだけなのを無条件で『目上』と呼べるかどうかは疑問ですが、そういえばキャバクラ嬢にはバッグを買ってあげたそうですね!」 「よく知ってるなあ! 『ダイヤモンドアイランド』のアユミちゃんな! もちろんすごく喜ばれたぜ! 女の子はああじゃないとな!」 「なるほど! ですが即日質屋にたたき売られて、メルカリで買ったパチモンだってバレてましたよ! 箱と紙袋を単体で別に購入するとは手が込んでますね!」 「……貴様……何者だ?」 「よくぞ聞いてくれました! 私は愛の調停者です! あなたたちご夫婦の愛が『均等』か『不均等』かをジャッジさせていただきます!」  そう叫ぶと、男の頭には角が生え、背中に翼が生え、口からはにょっきりと牙が伸びた。 「……人間と取引する悪魔的なやつか?」 「悪魔だなんてとおんでもございません! 私はただジャッジするだけです! その後どうされるかはご夫婦次第!」
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