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01.金色の首輪
「俺はもう破滅だ!」
真夜中の街角で、その男は絶望に沈んでいた。
「今度の小説がダメなら、いっそのこと……」
男は橋の上に立ち、真っ暗に染まった川の流れを眺める。
かといって橋の欄干を乗り越えて川の流れへ飛び込む勇気など、自分のどこにもないことも男は知っていた。
小説も書けない、かといって川に飛び込む勇気もない。絶望だけが男の胸を満たす。そのとき、男の目にかすかな光が見える。
河川敷の隅で金色の光が揺れていた。風に揺れる雑草の向こうで、金色のまばゆいばかりの光がちらちらと見え隠れする。男はその光に吸い寄せられるように歩き出し、河川敷へと下りていく。
金色の……、首輪?
河川敷の雑草の中で男が見つけたのは金色の首輪だった。大型犬の首に巻けるくらいのサイズ。その首輪のすべてが金色に輝いている。あるいは金色の糸で作られたみたいに。
男の好奇心がむくむくと湧いた。小説を書く人間としての好奇心。
小説を書くといっても、この男はプロではない。アマチュアの小説書きで、あちこちの公募に応募し、そしてネット上にも小説を発表していた。入選した試しは今まで一度もないけれど。
金色の首輪か、面白そうだ。
手にした金色の首輪をじっと見つめるうちに、この首輪を自分の首に巻いてみたいという気持ちが男の胸に湧き起こる。あるいは、これは犬の首輪ではないのかもしれない。たとえば人間に……。
男の頭にさまざまないかがわしい想像が浮かんでは消えていった。
どうせ真夜中だし、誰も見ていないだろ。男は金色の首輪を自分の首に巻いてみた。金色の光が男の首の周囲を金色に輝かせる。すると突然、男の頭に小説のアイデアが次々に湧いて出てくる。温泉を掘り当てたみたいに、次々に噴き出してくるアイデアやプロット。
男はさっきまで抱えていた絶望をすっかり忘れ去り、その一方で突然湧いてきた小説のアイデアに突き動かされるように、自分の部屋へと戻っていく。金色の首輪を自分の首に巻いたまま。
その後ろ姿を、犬の神様が物陰からそっと見つめていた。
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