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押し入れの中にある大小様々な箱を全て取り出していると、小さく音を立てて落ちたそれを見て彼は目を見張る。厳重にガムテープで封をされていた、とりわけ小さな箱を視界に収めたからだった。長年放置していたそれは粘着がベタベタになっていたため、散々苦労して開けると、ぽつんと鎮座している中身を見て、思わず小さく声を上げる。
「よお……久しぶりだな、お前ら」
小さな箱の中に行儀よく並んだ三つのうち箱の方を手に取り、目を細めて何度もそれらをひっくり返す。オレンジ色のグラデーションが施されたパッケージの箱は、手のひらに違和感なく収まり、彼は箱を開けて細長い円柱の形をした中身を取り出す。芳しい香りがふわりと彼の鼻腔をくすぐった。
「懐かしいな……これを見るのは35年ぶりか」
彼は箱に入っていた、鈍く光を反射する四角い物を取り出した。澄んだ金属音を立てて開けると、着火のためのホイールと、通気孔のある四角形の金属が顔を出した。ホイールを回すが、流石に火はつかない。中身そのものが抜かれているようだ。
「明美、今日だけは勘弁してくれや」
彼は仏壇にある引き出しからライターを取り出すと、細長いそれの先端に火をつけ、反対側を口に咥えた。そのまま息を吸いこむと、懐かしい香りがしたと思えば盛大に咳き込んだ。久しぶり過ぎたのと、あまりにも味がきつくて頭が思わずくらくらする。とはいえ、良く知っている慣れ親しんだ味であり、落ち着くといえば落ち着くのだが。
「変わんねえな。この味も、匂いも……」
咳が弱くなってきた段階で、彼は再びその煙を深呼吸をするかのように吸い込んだ。先端の小さな赤が、吸う息と共にじりじりと口元へ近づき、それを灰にしていくので、彼はもう一つ箱に入っていた、所々凹みのある小さな丸い金属の灰皿を取り出して、とんとんと灰をその中に落とす。そして灰皿にそっとそれを横たわらせて、ゆるく息を吐いた。
「そうか。俺が禁煙して三十五年経つのか」
細くたなびく煙が部屋を染め上げる夕闇色に染まることなく、真っ直ぐと立ち上っていた。時折ゆうらりと形を変えるそれを見ていると、彼の心は昔の記憶に誘われていく。
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