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マコとチェリムは、一瞬で身構えると、視線を交えてから、お互い同時に地を蹴った。
チェリムとは、マコが何度か庭球部に助っ人として顔を出しに行く関係で、仲は良いほうだ。試合が近いチェリムの相手をしたり、ダブルスの練習にも付き合うことも多々ある。
「やぁっ!」
チェリムは庭球部内では、アタッカーとして有名だ。つまり自分から前に出て、攻めて攻めて攻めまくる戦法が得意だ。戦闘においても、その姿勢は活かされているらしく、こちらが息つく暇もないほど、ガンガンに仕掛けてくる。
「はッ!」
「!?」
しかし、何度もダブルスを組んだことのある相手だ。チェリムの癖は、熟知している。
守りを捨てて攻めに徹する戦法というのは、いざ自分が攻められる側にまわると、太刀打ちが難しくなる。
「隙あり!」
マコの意表を突かれた一手に、チェリムは反応が遅れた。そのわずかな隙を、マコは見逃さなかった。
風のようなスピードで、剣を持つ腕とは逆の腕を伸ばして、チェリムの胸元のバッジをかっさらう。
「………………」
「ま、負け、た……」
ドサッ――と。
膝からゆっくりと、地に倒れ伏すチェリム。落とした剣が、カランカラン、と乾いた音を立てる。
「いやチェリム、大げさよ。倒れるほど受けてないでしょダメージ」
「うふっ、バレた?」
ひょいっと起き上がるチェリムに、マコはため息を吐く。
「それにしても、また一段と速くなったわねチェリム」
「えー、それ嫌味? それすらも上回ったくせにー」
「チェリムの癖と人柄をよく知ってないと、もう勝てないわよ。強いて言えば、最初に私に当たったのが運が悪かったわね」
「うふふ、それはそう。あーあ、また特訓し直しかぁー。また練習、付き合ってよねマコ」
「ええ、もちろん」
剣を拾い上げて、トボトボと去っていくチェリム。その背中を見送って、
(ふう、最初から強敵にあたるなんて……。勝ててよかったわ)
額の汗を拭い、マコは再び、植え込みの中に隠れる。
(とりあえず一勝。これ連戦はキツいわね。一戦したら、休憩を挟まないと……)
「見事な腕前だな」
「!?」
ひと息をつこうとしたマコだが、すぐそばから発せられた肉声に、声を出せないほどびっくりした。
「フッ……。そう焦るな、“黒炎の女剣士”よ。汝を攻撃する気は毛頭ない。あったら最初からやっている。……フッ」
「フ、フーディー? いつからそこに……」
「フッ……」
つい先ほどが初会話だった女子生徒、美食倶楽部の会長、フーディー・ドナイル。
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