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そこに行くには
ー そこに行くには、何が必要?
僕たちは、殺されるために生まれたわけじゃないって、思ってもいい場所に生きていますか。
狭い教室に詰め込まれて、窮屈で硬い椅子と机の間で、なんだか居心地が悪くて息が出来なくなっちゃって。
突然おかしくなっちゃって。
叫び出したくなっちゃって。
だって、なんだかとっても異端で申し訳なくて。
みんなは普通でちゃんとしてて自分でいるのが恥ずかしくって。
でも、死ぬだなんて許されないでしょ?
戦争していない国で、両親揃ってて、雨風しのげて、ご飯も三食たべられて、お風呂もベッドもあったかいパジャマもあるのに。
不幸な悲劇のヒロインぶって、そんなの間違ってるってわかってる。
だってこんなにも恵まれていて、だけど時々ぶっ叩かれるのも愛のムチってやつだって、保健室の先生は手首の傷を無視して歌うように言う。
思春期のせいだって、ちょっとズレてるのも愛嬌だって、ワガママ過ぎるって、顔が可愛ければ痩せていればスポーツが出来れば成績が良ければ、僕たちは満点だって頭を撫でてもらえるの。
外は寒いって、逃げ場はないって、バカだな、銃弾の嵐が降ってるわけじゃないだろ、行け、ここで発狂したらぶん殴られるんだから、凍える方がマシだろ、心が死んでしまうくらいなら、行け、吹雪の中、駆けて、駆けて、たどり着ける場所があるなら、どこへ行きたい?
今日、地球では幾つの命が燃え尽きたの。
ねえ、聞いて、お願い、少しだけでいいから。
今、僕がいるところでは、僕はどうやら変わっているらしいけど。
世界は、ここしかないわけじゃないんだよって、お母さんが言ってたんだ。
たくさんの景色を見て、たくさんの音を聴いて、たくさんの人に会って、たくさんの経験をして、もしそれが難しくても、想像をしてみて。
良く言うじゃない。
ちっぽけな自分、なんてこと。
美しい、と感動すると、楽しい、とはしゃぐと、おもしろい、と興味を持つと、潰れてしまった心は息を吹き返す準備をはじめるよ。
どうかな、何でも起こり得るこの世だったら、もしかしたら僕たちを理解してくれるトモダチとだって、出会えることがあるかもしれない。
傷つけてしまったひとに、ごめんなさい。
僕たちの脳は、こう言う風に出来ている。
そんなつもりじゃなかったんだ。
だけど、だからと言ってあなたの痛みは消えない。
こんなにも支えてくれる手が増えたってのに、僕たちの方も努力し続けなければならないと思うんだ。
まるで異星人みたいって、笑ってくれる子もいるよ。
だけど、気色悪がる子の気持ちだって、認めてあげたいんだ。
いい気はしないの当たり前だけど、それでも、その子の感じ方ではそうなんだ。
僕たちは、その子を悪者にするべきじゃない。
我が子のことなのに、ちっともわからないって苦しまないで。
あなたが愛することに困難を感じても、きっと僕たちを愛することが出来るひとはいるから。
そう、信じてあげて欲しいんだ。
どうか、絶望しないで下さい。
悪魔を、鬼子を産んでしまったと、投げ出さないで欲しいんだ。
ちゃんと、受け入れてくれる場所があるって、知っているよ。
世間体なんか、僕たちを閉じ込めて熱したヘアアイロンを押し当てる苦しみに比べたら、きっとなんてことないよ。
手放した方が、どちらも幸福になれることだってあるんだ。
ひとりじゃないよ。
ありきたりな言葉だけど。
ひとりじゃないよ。
誰も、ひとりなんかじゃないんだよ。
だから、駆けて行こう。
真夏のカンカン照りの中、猛吹雪の中、青空じゃなくても、雲間から光が降り注ぐあの一点目指して。
奇跡はどうやら起きないけれど、宝物なんだよ。
あなたの、あなたたちの、僕の、僕たちの、生きている時間ってのは。
何物にも代えがたい、尊くて偽りない純度の高いダイヤモンドよりも素敵な。
歴史の中の砂金みたいに。
輝いていい。
ー そこに行くには、何が必要?
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