二章

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「わたくしは、ミリアクト伯爵家を自分から出て行ったの」 「はい」 「その理由は……っ、理由は」 コレットはあの四人の顔を思い出して唇を噛んだ。 もう忘れたいと思っているのに、あの屈辱を思い出すたびに言葉に詰まってしまう。 「ごめん、なさい……ヴァン」 ヴァンは優しくコレットを抱きしめて、それ以上何も言うことはなかった。 自分の弱さに打ちのめされそうになる。 「一つだけコレットの気持ちを聞かせて欲しいですが、いいでしょうか?」 「……えぇ」 ヴァンの質問にコレットは頷いた。 「あの家に、戻りたいと思いますか?」 コレットはヴァンの言葉を聞いてすぐに大きく首を横に振る。 野垂れ死んだっていい、その覚悟で身分も家も家族も捨て去ったのだから。 「戻りたくないわ。絶対に……!」 コレットの言葉を聞いて、ヴァンの口角が吊り上がっていく。 そのことに気付かずにコレットは自らを抱きしめるように腕を回した。 「それだけ聞けたら十分です。ありがとうございます、コレット」 「……ごめんなさい」 「ああ……コレット、これ以上あなたが怯える必要なんてないんです」 「わたくしは何もできない。今はもうただのコレットなの。だからヴァンにはなんの得もないのよ?」 「そんなことありません」
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