三章

11/66
前へ
/234ページ
次へ
リリアーヌに恐怖が襲う。 挨拶をもし間違えてしまったら? ディオンが言っていたように馬鹿だって笑われたら? ずっと両親に頼って生きていたリリアーヌにとって、はじめての経験だった。 今回の大きなパーティーにリリアーヌがきちんと対応してくることを両親は望んでいた。 しかし今、そんなことはもうどうでもいい。 可愛らしいドレスを着た自分の姿を会場にいる令嬢に見せつけてやろうと思っていたが、そんな気持ちはどこかに消えてしまう。 こちらにジリジリと近づいてくるように人が押し寄せてくるような気がしてリリアーヌは背を向けて逃げ出した。 (やっぱりわたしには無理っ!お父様とお母様にはまた具合が悪くなったって言い訳すればいいわ……) リリアーヌはディオンの言った通り、公爵の馬車に逃げ帰るようにして走った。 誰にも挨拶しないままで姿を消すというありえない非常識な行動をとっているとも気づかぬまま伯爵家へ。 しかし両親は逃げ帰ったリリアーヌを慰めることも、よく帰ってきてくれたと褒めてくれることもなかった。 リリアーヌの耳に入ってきたのは父がいつもコレットに向ける怒号と母の金切り声だった。 (な、なんで……?わたしがこんなに困ってるのに!) リリアーヌが「具合が悪いから」と逃げようとしても「今から引き摺ってでもパーティーに戻る」と言って聞かなかった。
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1152人が本棚に入れています
本棚に追加