三章

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シルヴァンは消えた第一王子の名前だった。 となれば、ヴァンはエヴァリルート王国の第一王子ということになる。 城で開かれる王家主催のパーティーでしかヴァンに会えなかったことを考えれば納得がいく。 しかし身なりからして彼が第一王子だとは想像することができなかった。 「どう、して……」 コレットは小さく首を横に振った。 「今まで黙っていて申し訳ありません」 「ごめんなさい、ヴァン……いいえ、シルヴァン殿下と言った方がいいのかしら」 「いいえ、今はヴァンですよ。コレットがそう呼んでくれたから、僕はこの名前を好きになれた」 初めてコレットと出会った時のこと。 名前を聞かれ答えたが、小さな声を聞き取れずにコレットは『シルヴァン』を『ヴァン』と聞き間違えてしまう。 しかし当時のヴァンは否定することはなく、そのままコレットにヴァンと呼ばれることは悪くないと思い訂正しなかったのだと語った。 「僕はコレットにヴァンと呼ばれていた時間だけが幸せだと思えた……今もそうなんです」 「…………」 「なので今まで通りに接してください」 ヴァンは縋りつくようにこちらを見ている。 この真実をすぐに告げられた後に、今までと同じように接することは難しい。 「もう僕はエヴァリルート王国の人間ではありません。死んだことになっているはずですから」 ヴァンは淡々と語っているが、彼の心情を考えると何も言うことができなかった。
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