三章

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「それから僕の恩人はゼゼルド侯爵……彼なんです」 「ゼゼルド侯爵って……彼は任務中に忽然と姿を消したんじゃなかったかしら」    しかしヴァンはコレットの言葉を否定するようにゆっくりと首を横に振る。 コレットはゼゼルド侯爵についての話を聞いたことがあった。 国王の腹心でもあるゼゼルド侯爵が消えたことは社交界の話題で子供だったコレットも知っていた。 しかし八年ほど前になるだろうか。 長年、国王の側近として働いており独り身だった彼は莫大な資産を残して姿を消したそうだ。 屋敷は売り出されるものの、呪われているなどと噂が経ち、誰も買い取るものはいなかった。 ゼゼルド侯爵が管理されていた土地は分けられて、その土地の一部はミリアクト伯爵が引き取って領地を広げた。 もしヴァンの言うように、ゼゼルド侯爵領の屋敷であるならばミリアクト伯爵家からもそう遠くない場所にコレットはいたことになる。 ヴァンはゼゼルド侯爵を〝恩人〟と言った。 そしてエヴァリルート王国を地獄と表現したことにも意味があるのだろう。 するとヴァンは外の景色に視線を流しつつ、重たい唇を開いて真実を語ってくれた。 ゼゼルド侯爵は当時、エヴァリルート国王の最も信頼されていた騎士だった。 そしてエヴァリルート国王から、『シルヴァン』の処分……つまり暗殺を命じられたそうだ。
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