三章

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コレットはヴァンに名前を呼ばれて、ゆっくりと顔を上げた。 ヴァンがいつもの優しい声色に戻ったことに安堵していると、彼はコレットに「もう大丈夫ですから」と言った。 コレットはその言葉を信じて手を離すと、ヴァンは何故かウロとメイメイがいる方に手を伸ばす。 するとすぐに濡れた布が渡されて、ヴァンは手を丁寧に拭ってからウロに布を返している。 コレットはそれを見て首を傾げていた。 それからメイメイから渡される乾いた布で手を拭うとコレットを優しく抱きしめる。 「ヴァン、何を……?」 「汚い手ではコレットには触れられませんから」 〝汚い〟という言葉に唖然とするものの、ヴァンが先ほど触っていたのは〝リリアーヌ〟だ。 そしてあえてシェイメイ帝国の言葉で言わなかったことも意味があるような気がした。 コレットは戸惑いつつもリリアーヌをチラリと見た。 顔には掴まれた跡が残ってはいたが、幸い怪我はなかったようだ。 しかし今まで感じたことのない危険を感じたのだろう。 恐怖からか自らを守るように体を抱きしめてガチガチと歯を鳴らして震えている。 コレットはリリアーヌの怯える姿を初めて見て、どう声をかけていいかわからなかった。
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