四章

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周りのことなんて気にならなかった。 ただ許せないという気持ちを吐き出したいと思っていた。 青年とコレットはまた一言二言、言葉を交わすと、青年はリリアーヌの前に来る。 見たことのない異国の服に端正な顔立ち。 ホワイトアッシュの絹のような髪と紫色の瞳は美しくて魅入られてしまう。 耳には見たことのない銀色の耳飾りが揺れている。 何を言っているかはわからないがリリアーヌに言葉を掛けてくれている。 (ああ、コレットお姉様よりもわたしの方がいいと思っているのね……当然よ!みんなわたしを選ぶんだもの) 悪い婚約者から救い出してくれる王子様……リリアーヌにはそう見えた。 しかし男性は片手でリリアーヌの口元を握るとそのまま持ち上げてしまう。 全部の体重が顔にかかり、息苦しさに身悶えていた。 何かを言っているようだかは恐怖と痛みで何も聞こえない。 リリアーヌが呼吸ができずに意識が飛ぶ寸前だった。 「──ヴァン、やめてっ!」 コレットの声と共に男性の手が離れた。 咳き込むリリアーヌを無視して、男性はコレットの元へ。 「汚い手ではコレットには触れられませんから」 〝汚いもの〟それはリリアーヌに触れた手を指しているのだとわかった瞬間、腹が立って仕方なかった。 こんな屈辱は生まれて初めてだった。
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