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そのまま窓を見ていると、一瞬だけ通り過ぎていく景色の中で誰かが横たわっている。
見覚えのあるオリーブ色の髪が光に反射して見えたような気がした。
(まさか……そんなはずはない。彼女がこんなところにいるなんて。だが、万が一そうだったら?)
忘れるはずがない。あのオリーブ色の髪と輝く光のような金色の瞳を。
ありえないとわかっているのに確認せずにはいられなかった。
「───止まってくれ!」
思わず叫んだ。
大声を上げたことに驚いたのか、馬車は少し離れたところで急ブレーキをかけて止まる。
御者が来る前に乱暴に扉を開けてから馬車を降りた。
後続の馬車から人が次々と降りてくる。
名前を呼びながらこちらを追いかけてくるが、そんな声を無視していた。
先ほどの場所まで全力で走っていく。心臓はありえないくらい脈打っていた。
自分がこんなにも彼女に焦がれて求めていたのだと思い知らされる。
目の前で倒れている少女は身なりはいいようだが、かなり痩せ細っているようだ。
(……やはり違うか。彼女は貴族だ。こんなところにいるはずがない)
そう思いながら顔を隠しているストールを捲った。
「──ッ!」
成長していても彼女を見間違えるはずがない。
今まで抑えていた思いが溢れそうになるが、ある異常に気づく。
ストールから見える艶やかで長かったオリーブ色の髪は不自然なほどに乱雑に切られていた。
形のいい唇は青白くて乾いており、痩せこけた頬をそっと指で撫でる。
もう片方の頬は不自然に腫れていた。
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