一章

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* * * (あれ……わたくしは道で眠ってしまったはずじゃ) 手足の感覚がなくなるほど寒かったはずなのに、温かい何かに包まれている。 嗅いだことのない甘く重たい香りが鼻につく。 誰かが顔にかかった髪をサラリと優しく梳いたような気がした。 微睡みの中、人肌に優しに包み込まれていることだけは理解できた。 こんなに幸せな気分で眠れるのはいつぶりだろうか。 「ずっと……この、まま」 「はい、いいですよ。ずっとここにいてください」 「…………?」 返事が返ってきたことを不思議に思っていた。 薄っすらと瞼を開けると雲のように煙が浮かんでいるのが見える。 その瞬間、だんだんと記憶が蘇っていく。 (わたくしはミリアクト伯爵家を飛び出して、寒さに耐えかねて道端で眠ってしまったはず……よね?) もしかしてここは天国なのかもしれないと思ったけれど匂いや感触、体温が違うと教えてくれる。 コレットがゆっくりと首を傾けると目の前には光に反射して透き通るホワイトアッシュの髪と猫のように細まっている紫色の瞳。 まるで愛おしいものを見るような目だと思った。 両親が宝物であるリリアーヌを見るような愛情のこもった視線を思い出したところで、コレットは大きく目を見開いた。
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