一章

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(とても優しい味がする。美味しい……) ホッとする安心感と共にリゾットの美味しさが身に沁みる。 三口ほど口に運んでから手を止める。 カチャカチャと何度も食器が擦れる音が耳に届いた。 コレットのスプーンを持っていた手は大きく震えていた。 これ以上、音を立てる前にとトレイにスプーンを置いてから鼻を啜る。 肩が小刻みに揺れて目からは涙がポロポロと溢れてくる。 声を殺すように唇を噛むがどうしても音が漏れ出てしまう。 涙と共に感情が溢れて止まらなくなった。 「ふっ……うぅっ」 コレットは静かに泣いていた。 お腹はまだまだ満たされないけれど、あの場所から離れることができたおかげでコレットの悲しみが少しだけ癒えたような気がした。 迷惑をかけてはいけないと気持ちを落ちつかせてから今度はフォークを手に取り、フルーツを刺して口元に運ぶ。 優しい甘味が口内に広がっていく。 コレットはゆっくりとゆっくりと食事をしていた。 砂を食べているようなミリアクト伯爵家での食事が嘘のように味を感じる。 「……ごちそうさまでした」 コレットは空っぽになったお皿を眺めていた。 涙はずっと止まらないし、鼻水もすごいので今はひどい顔をしているだろう。 けれど久しぶりに穏やかな時間に心が満たされていた。
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